9日の米株式相場は今後に不安を残す展開となった。ダウ工業株30種平均は朝方こそ前日比300ドル超まで上げる場面もあった。しかしその後は長期金利の上昇とともに急速に値を消し、結局は249ドル安の3万3699ドルと続落して引けた。
どんなに買いが先行しても、長く続かない。ダウ平均も年初こそ上げが際立っていたが、最近はローソク足に「上ヒゲ」を残すことが増えた。
根底には市場の気迷いがある。「米国をめぐる最大の謎は経済だ」。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルですらこう報じるように、米経済が強いのか弱いのか、なかなか判別がつかない。
買いか売りか。多くの投資家が迷うなか、目立ち始めたのが弱気派の動きだ。
「今回は違う」。7日には「空売り王」こと著名投資家、マイケル・バーリ氏がツイッター上でつぶやいて話題を集めた。同時に投稿したのが、20年前のS&P500種株価指数と米連邦準備理事会(FRB)の政策金利のチャートだ。
期間は01年初頭から02年にかけて、いわゆるネット株バブル崩壊の時期にあたる。景気下支えのためにFRBは急速な利下げに動くが、株安も進んでS&P500は4割も下落した。
08年のサブプライムローン破綻に賭け、大きな利益をあげた同氏は秘密主義でも知られる。「年初の株高が続くとみる市場の楽観主義者らを嘲笑した」。真意をくんで、フォロワーらは解説する。1月末にもやはり「Sell(売りだ)」と、ただ一言投稿していた。
事態は思う以上に切迫しているのかもしれない。「株バブルは最終段階を迎えつつある」。当代一の「バブル研究家」とされる米運用会社GMOの共同創業者、ジェレミー・グランサム氏は1月下旬、投資家に改めて警告を発した。
かねて「我々は過去100年間で4回目のスーパーバブルの中にいる」と主張してきた。ただのバブルではない。株、債券、住宅のすべてが実体経済から大幅に乖離(かいり)した高水準にある。1929年の大恐慌、89年の日本のバブル経済、2000年のネット株バブルに続く異常な状態というのだ。
要約すればシンプルだ。目先はウクライナ危機、迫る米国や中国の不動産バブル崩壊などが世界経済への重荷となる。さらに長期でも気候変動、労働者不足、資源の枯渇と暗い材料しかない。
それらを考えれば「株式のバリュエーションは長期平均に依然ほど遠い」。同氏の計算では、S&P500は23年末までに3200と現在から2割強下落してもおかしくないという。
見逃せないのは楽観派からの転向もじわり増えている点だろう。
1〜3月は「市場の変曲点」となり、4月から9月にかけて相場が急降下する「エアポケット」に入る――。ウォール街を代表するストラテジスト、米JPモルガンのマルコ・コラノビッチ氏はこのほど、顧客あてのメモで警鐘を鳴らした。
相場急落に見舞われた22年の大半を楽観派として通してきた同氏だ。昨年後半に見解を覆し、株式配分を減らすよう助言し始めた。FRBの言うところの「インフレ鈍化」は一過性にすぎず、さらなる利上げで米経済は年末にかけて悪化が続くとみる。
バブルの渦中はバブルと気付くのが難しい。それは日本のバブル経済でも実証済みだ。そして株式投資はケインズの言うところの「美人投票」に通じる。弱気派が勢力を増している事実は、米市場の異変がリアルに変わりつつある怖さを映す。
(ニューヨーク=阿部哲也)
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