政府は2025年度から新築住宅に一定の断熱性能の確保を義務付ける。断熱材や窓ガラス、サッシの性能を高める必要があり、住宅価格の上昇が予想される。積水ハウスの仲井嘉浩社長は「平均価格が2200万円から2300万円の住宅が今後の日本のスタンダードになる」と語った。省エネ基準が義務化されることの住宅市場への影響や、対応策などを聞いた。
断熱性の義務化は商機
――積水ハウスの注文住宅は価格帯で3つに分かれています。3000万円未満の「ファーストレンジ」は22年2〜7月は受注比率が6%にとどまりました。今後は3000万円以上の中高価格帯に力を入れますか。
「5000万円未満の『セカンドレンジ』と、それ以上の『サードレンジ』が主力商品ということは変わらないだろう。ファーストレンジは、ここ3年間は伸ばすことができなかった。何らかのテコ入れをしていきたい。国の政策で断熱性の義務化が近く始まるが、積水ハウスはファーストレンジでもその要件をクリアしているため、チャンスが来ると考えている」
「ファーストレンジが伸びれば、日本全体で良質な住宅ストックの形成につながる。それに伴って住宅のリフォーム需要も生まれるだろう。例えば耐震性が不十分な家に再投資をしても、震災などが起これば資金が台無しになりかねない。住まい手の心理として再投資しにくくなるのではないか。強固で安全な構造軀体の住宅を供給すればするほど、それらの住宅が流通し、リフォーム需要も生まれるという流れだ」
――政府が新築住宅の省エネ基準を義務化することに伴って、住宅価格の上昇が予想されます。
「すでに当社のファーストレンジは断熱性の基準を満たしており、平均価格は2200万円から2300万円だ。これが今後の日本のスタンダードになるべきだと思っている。省エネや耐震性の要求が厳しくなると、2000万円未満のローコスト住宅は現状から価格の乖離(かいり)が生じるのではないか」
「例えば1500万円の住宅を造っている場合は、ゼロエネルギーハウス(ZEH)基準に耐震性の強化まで加えると、2000万円台に上がる可能性がある」
顧客情報管理に注力
――リフォームや建て替えの需要を、どのように受注に結び付けますか。
「顧客情報管理(CRM)に力を入れている。従来は全国各地にあるカスタマーセンターに電話でリフォームの相談を受けていたが、20年8月にウェブサイトやチャット、LINEでも受け付けを始めた。さらにコールセンターは内製化しており、365日の24時間で対応できる」
「電話を受けて台帳に記入する時代は、すでに終わった。現在はDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、顧客との接触の機会をデータベース化している。住宅の築年数や地域、台風や地震などの災害データと掛け合わせることで、どのタイミングでリフォームを提案するかなど、データベースを新しいサービスにつなげる。データを読み込んだ人工知能(AI)が勝手に判断してくれるような時代も来るかもしれない」
――22年は円安の影響もあって輸入資材の価格が高止まりし、住宅の建築コストも上昇しました。しかし同年12月に日銀が大規模金融緩和の修正を打ち出し、円安修正の流れもあります。住宅建築への影響を、どう見ますか。
「価格が今でも上がっている資材もあれば、安定している資材もある。円高になれば資材価格が下落局面になるのではないかと期待している」

――21年と22年は一部住宅の値上げを実施しました。23年に資材価格が下がれば、値下げしますか。
「資材価格の高騰分をすべて価格転嫁しているわけではない。資材価格が下がった分、そのまま価格を下げることはまだ検討していない」
――23年の戸建て住宅市場の見通しは。
「家計に影響する物価や光熱費の上昇もあり、マインドとしては絶好調ではないため22年並みになるのではないか。23年春の春季労使交渉では各社がベースアップを実施すると予測される。これによって良い経済の循環を迎えるならば、上向き基調になると考えている」
国内の成長戦略示せるか
22年2〜10月期の売上高の前年同期比増加額は2852億円だ。そのうち海外事業が1075億円と、3分の1以上を占める。買収した米国の住宅会社の収益も寄与した。しかし現在は米国での住宅ローン金利の上昇や物価高が逆風で、24年1月期は住宅販売が減速する可能性もある。
日本国内の事業はどうか。賃貸住宅を建築する事業は好調だが、注文住宅を建てる主力事業の戸建住宅は振るわない。22年2〜10月期の売上高は微増にとどまり、営業利益は1割弱の減少となった。仲井社長は日本の住宅着工戸数について「伸びることはないが、30年までは横ばいで推移する」とみている。
住宅メーカーの戦略としては1棟当たりの単価を上げて収益を確保するか、リフォームに注力するか、または戸建住宅を買い取ってリノベーションして販売する買い取り再販の拡大などが考えられる。ライバルの大和ハウス工業は平均価格が3億円の高級住宅に力を入れており、販売開始から1年半で11棟を建築した。買い取り再販でも「リブネス」というブランドを設けて営業活動を強化している。
海外市場の開拓は重要だが、日本で安定した収益を確保できなければ企業としての成長は難しい。国内外の最適な事業バランスも含めて、将来に向けた明確なビジョンを打ち出すことが仲井社長には求められる。
(仲井成志)
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