市場に悪影響与えない正常化に取り組む
木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト
植田氏は日銀の事務方との関係が極めて近い人物だ。過去に量的緩和策を推進しており、金融引き締めに積極的な極端な「タカ派」とまではいえない。だが(異次元緩和を推進した)黒田東彦現総裁とは異なり、日銀の事務方と一体となって金融政策の正常化を進めていくと考えられる。
政策の正常化を進めるにあたり、日銀は金融資本市場が大混乱するような激変は避けたいと考えているはずだ。植田氏もそうした考えをくみ、市場に大きな悪影響を与えない形で正常化に取り組んでいくと予想している。
市場は「タカ派」的人事と受け止め
丹治倫敦・みずほ証券チーフ債券ストラテジスト
植田氏は最近では公の発言がなく現在の考えが分からない部分がある。そのため、過去の発言を手掛かりにせざるを得ない。植田氏が日銀審議委員を務めていたころの議事録によると、1998年5月の金融政策決定会合では「インフレ率ゼロは必ず悪いということではない」との認識を示していた。この発言が独り歩きすると、大規模な金融緩和を縮小するとの思惑を生みやすい。
雨宮正佳副総裁が打診された総裁就任を辞退したと報じられていることは気にかかる。政府側から何かしらむちゃな要求をされたとの推測にもつながりやすいためだ。足元の市場は金融引き締めに積極的な「タカ派」的な人事として受け止めている。
政府は日銀への影響力を強めており、次期総裁の人選自体が将来の金融政策の方向性を決めるわけではない。最終的には政府の動向次第となるものの、個人的には金融緩和に軌道修正を加えるという観点から長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を維持した上で、マイナス金利政策のみを解除するとみている。
「雨宮氏以外」のインパクト大きく
諸我晃・あおぞら銀行チーフ・マーケット・ストラテジスト
人事報道が伝わった直後の外為市場では円相場が急伸した。これは「雨宮副総裁が次期総裁には就任しないこと」への市場のファーストリアクションだと考える。雨宮氏は大規模な金融緩和策の立案に関わってきた人物で(次期総裁の)有力候補の中では金融引き締めに慎重な「ハト派」とされ、黒田現総裁の路線を踏襲するとの見方が大勢だった。雨宮氏以外になった、というインパクトは大きい。
植田氏が審議委員を務めていたのは1990年代後半から2000年代半ばと、時間が経過している。近年、メディアなどで金融政策に関する発言を繰り返していたわけでもなく、市場では植田氏が日銀総裁になった場合の金融政策の先行きがまだ想像しにくい状況だろう。4月以降の「植田日銀」の政策の方向性を探るためにも、24日にも実施される見通しの次期総裁候補らによる所信表明にあたる「所信聴取」に注目したい。
黒田総裁が4月8日に任期満了を迎える。次に着任する総裁は誰であっても、23年度中にも金融政策の修正に動くと考えている。その点では、円相場は円高・ドル安方向へ動きやすい地合いが続くだろう。4月初旬に向け、1ドル=128円程度の水準が落ち着きどころになるのではないかとみている。
金利上昇と円高が株価の逆風に
井出真吾・ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト
植田氏はこれまで次期総裁候補として名前があがっておらず、サプライズ人事となった。6日には「政府が雨宮副総裁に就任を打診した」と報じられており、市場では「新体制移行後の大きな政策変更はない」との見方が広がっていた。
週明け(13日)の日経平均株価は下落するとみている。植田氏就任となれば、雨宮氏よりも金融政策が正常化する可能性が高まると理解している。副総裁として異次元の金融緩和を支えた雨宮氏より政策修正に踏み切りやすい。長期金利の許容変動幅の拡大などを含めて修正に動くだろう。長期金利の上昇は株式の相対的魅力の低下につながるほか、円高・ドル安が進行し輸出関連企業には逆風だ。金融正常化への思惑から不動産株が下落する一方、銀行株が上昇するとみている。
〔日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行、寺川秋花、岡田真知子、鎌田旭昇〕
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