トルコ史上でも有数の惨事となった。専門家は被害が拡大した要因として耐震基準の運用が緩く、建物の半数以上の1000万棟超が基準を満たさない可能性を指摘する。
トルコ当局によると、10日午後までに同国内で確認された死者は1万8991人となった。内戦下のシリアでは、アサド政権側の国営メディアが1347人が死亡したと報じた。政権の支配が及ばない北西部の反体制派地域では、現地の団体によると少なくとも2030人が死亡した。
トルコの人的被害としては1999年のイズミット地震(約1万7000人)を上回った。当局によると、1万2000棟以上の建物が崩れるか重大な被害を受けた。
イズミット地震後、耐震基準はたびたび改正されてきた。トルコで10年以上、防災講演を続ける安藤ハザマのトルコ代表、森脇義則氏は最新の2018年基準について「日本と同等かそれ以上」と評する。ただ実際は基準に満たず、地震などに弱い建物が多いという。

森脇氏によると、設計や完成段階で行政による適切なチェックが行われないことが多いうえ、一定の金額を支払えば基準未満でも認められる「恩赦」という仕組みの存在がある。賄賂ではなく、これまで何度も成立した時限法に基づく制度だ。
不動産評価会社IGDのトップ、アフメト・ビュユクドゥマン氏は「建物完成後も、所有者や入居者が不法な改築を繰り返すのが実態だ」と指摘する。今回の地震でも、店舗面積を増やすために柱を除去した建物が崩れたなどとする証言が多く報じられている。
22年時点の政府高官の発言によると、危険度の高い建物は少なくとも全国に670万棟ある。これに対し、ビュユクドゥマン氏は全国に2000万棟超ある建物のうちの半数以上が一定の耐震性を保証する1998年の基準すら満たしていないと指摘する。
今回の地震では、建物が垂直に潰れるように崩れる「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる現象で、被害が拡大したと指摘されている。2000年代から急速な経済成長で都市化が進んだトルコでは住宅や商業施設の量の確保が優先され、防災設備など質の担保が後回しされた可能性がある。
最大都市イスタンブールの公共施設でも、非常階段に鍵がかかっていてエレベーター以外に移動経路がない例は多い。
一方で、日ごろの備えで九死に一生を得たという人もいる。
「日本で学んだ防災知識に感謝したい」。南東部アドゥヤマンの大学教員、オズギュル・チェビクさんは、京都に留学した時の体験から用意していた防災バッグ中の懐中電灯の明かりを頼りに、ただちに家族と一緒に自宅アパートを出た。室内で避難路が確保できたのも、家具を固定していたからだという。
日本では震度5強程度を想定していた旧耐震基準について、1981年に震度6強~7程度でも倒壊・崩壊しないよう規定が強化された。2013年施行の改正耐震改修促進法は、旧基準に基づく「要緊急安全確認大規模建築物」の店舗や小中学校などに定期的な耐震診断を義務化した。
耐震化が進められてきたが、国土交通省によると、22年3月末時点で全国1万1071棟のうち約1100棟が震度6強以上で倒壊する恐れがあるという。
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