リタイア世代の移住先として人気の山梨県が、20〜40代のミレニアル世代にも「二地域居住」の拠点に選ばれるための取り組みを、先進的な企業の力を借りて始めている。リモートワークと一時保育をセットで用意し、子育て世代が滞在しやすくしたほか、マイカーがなくても現地で移動しやすい仕組みを整えた。東京圏に近く自然が豊かな利点を生かし、関係人口の創出につなげようとしている。
東京在住で共働きの徳田さん家族は1月21日から2週間、甲府市に滞在した。目的は5歳の士織君の「保育園留学」。自然環境に恵まれた保育園で平日を過ごし、夫妻はそれぞれ宿泊施設や近くのシェアオフィスでリモートワークした。滞在中、夫は東京の会社に出社する日もあった。
「保育園留学」はキッチハイク(東京・台東)が2021年に北海道で始めた地方創生事業で、これまでに熊本・新潟・岐阜の3県を合わせた国内4地域で展開。山梨県でも甲府市や身延町など県内4地域で地元の保育所や宿泊施設と連携し、実証実験を始めた。1〜2月に計6家族をモニターとして1〜2週間ずつ受け入れる予定。

モニター家族の募集には計131件の応募があった。徳田さん夫妻は「子供に自然体験をさせたい。普段と異なる環境への適応力も身につけさせたい」と応募。北海道での保育園留学を体験済みで「甲府は東京に近く、必要なときは会社に戻れて利用しやすい」と話す。
料金は県内4地域で異なり、大人2人子供1人の場合、2週間滞在で20万〜35万円程度(モニター料金)。2023年度に予定する本サービス開始に向け、募集情報の提供を求める事前登録は計500件を超えた。キッチハイクの鳥海彩さんは「需要は大きい。受け入れ環境が整えば利用は拡大する。山梨県を保育園留学県にしたい」と意気込む。
実証実験は、山梨県が地元市町とともに協力している。担当する県リニア未来創造・推進課の斉藤浩志課長補佐は「予想以上の応募に驚いた。子育て環境として山梨県に期待する声の大きさを施策に生かしたい」と話す。
山梨県や長野県など7地域53棟の別荘を定額課金で会員に貸し出すスタートアップのSanu(サヌ、東京・中央)は、山梨県北杜市の八ケ岳地域16棟の利用者を対象に、地元の保育施設と提携して一時保育の受け入れサービスを1月に始めた。

3歳の子供に自然に触れさせたいと毎月2回ほど家族3人でサヌの別荘で過ごす東京在住の前田枝里さんは1月末に保育サービスを利用。「いつもは子供と一緒だが、久しぶりに夫婦2人でスキーを楽しんだ。過ごし方の選択肢が広がった」という。
サヌの会員はファミリー層が中心。福島弦代表は「保育サービスなどの追加で、子育て世代が別荘をより利用しやすい環境にしていく。自然体験プログラムも準備して、別荘で過ごす時間の魅力を高めたい」と話す。
サヌはトヨタレンタリース山梨(甲府市)と提携し、別荘地の最寄り駅からシェアカーを会員向けの価格で利用できるサービスも実施。「若い世代はマイカーを持たない家族も多い。冬は雪道になるので現地でスタッドレスタイヤの車を借りる会員も多い」という。
滞在中に山梨県内で暮らすことに魅力を感じてもらえれば、関係は継続的なものとなる。サヌによると、八ケ岳の別荘滞在をきっかけに現地にセカンドハウスを構え、千葉県の自宅と二地域居住を始めた元会員もいるという。
先進的なアイデアにより、東京に近く自然も豊かな山梨に子育て世代が滞在する機会が増えている。あとは、地域の魅力ある体験の提供や地域住民との交流など受け入れ側のソフト面の充実が、関係人口を増やすカギとなる。
(松永高幸)
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