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そごう・西武流転の構図4 商い革新か不動産業か

「新型コロナウイルスで百貨店に求められる役割が変わってきた」。高島屋立川店(東京都立川市)店長の渋谷稔はかみしめるように話した。東急百貨店本店(東京・渋谷)の跡地には、商業施設やホテルを複合した高層ビルが建設される。

旧そごうが経営破綻した2000年以降、全国で100店以上の百貨店が閉店した。

1人15分間――。ある都心の百貨店で来店客が滞在した平均時間だ。電子商取引(EC)で品定めした商品を店頭で購入する「目的買い」が増えているという。いつでも、どこでも買い物できるECが生活に広がるなか、巨大な売り場を抱える百貨店の役割が揺らいで久しい。

そごう・西武の売却額は2000億円超とされ、ある交渉関係者は「金額の大半が不動産の価値」と指摘する。駅前や繁華街の好立地が多い百貨店にとって、不動産が残された競争力のひとつであることを物語る。

J・フロントリテイリングは「脱・百貨店」を掲げ、30年度までに営業利益に占める不動産や金融の割合を4割に高めていく。東京・銀座のグループ店舗「ギンザシックス」は売り場すべてをテナントが占め、安定した賃貸収入で稼ぐ。小売りというより、不動産業に近い。

商品の目利きや接客に裏付けられた百貨店の「のれん」の価値はどこに向かうのか。

人工知能(AI)が商品を薦めるデジタル時代で求められるのが、驚きや夢のある商品と出合えるリアルの体験だ。デジタル革命の波をとらえ、売り場の革新に挑む動きが広がる。

そごう・西武は、西武渋谷店(同・渋谷)でECと店舗を融合させたショールーム型の売り場を設け、商品の魅力発信に力を入れる。高島屋は独自性のある商品拡充のため、バイヤーに若手社員の登用を進める。

品ぞろえと接客力が評価され、22年度に過去最高の売上高を見込む伊勢丹新宿本店(同・新宿)。三越伊勢丹ホールディングス社長の細谷敏幸は「顧客の深層心理に入り込み、商品を提案する」。その姿勢は、顧客の好みを細かく把握した江戸時代の呉服店に不思議と通じる。

未来の百貨店はどうなるのか。最適解を探す時間は限られている。

(敬称略)

吉田啓悟、坂本佳乃子、佐藤優衣、磯貝守也、鈴木卓郎、松川文平が担当しました。