中古賃貸マンションを転売する際、どこまで税控除の範囲なのか――。不動産会社と国税当局が争ってきた訴訟は9日午後、最高裁で双方の弁論が開かれた。焦点となっているのは、不動産会社がマンションを購入し、転売するまでの期間に、入居者から賃料を受け取ることの意味合いだ。一、二審で判断は割れており、最高裁が統一見解を示す。2020年4月の消費税法改正によって同種の問題は今後は生じないが、判決次第では全国で過去にさかのぼる還付請求が広がる可能性もある。ポイントを3つまとめた。
・一、二審はどう判断?
・判決の影響は?
(1)何が争われているのか?

訴訟を起こしたのは投資用不動産販売の「エー・ディー・ワークス」(東京)。中古マンションを購入し、リノベーションなどで資産価値を高め、投資家らに転売する事業を手掛けている。
同社は2017年3月期までに中古マンション84棟を購入。購入代金とともに消費税を支払った。
その後、マンションを投資家らに転売。今度は代金と消費税を受け取った。
同社は受け取った消費税を、国税当局に納める必要がある。その際、購入時に支払った税額を差し引く「仕入れ税額控除」という仕組みがある。同社はこの規定に基づき、購入時に支払った消費税全額を控除して申告した。
ところが、国税が待ったをかけた。同社が中古マンションの住人から賃料を受け取ったことを問題視したためだ。
当時の規定では、転売ではなく賃料収入が目的の中古マンションの購入は、消費税の全額控除の対象外とされた。
同社は転売までの一時的なものだったと主張したが、国税当局は全額控除を認めず、控除できるのは一部のみと判断。申告漏れを指摘し、過少申告加算税とあわせて計約5億3千万円の課税処分をした。
同社は処分の取り消しを求め、18年に提訴した。
(2)一、二審はどう判断?

20年9月の一審・東京地裁判決は、同社の主張を認め、同社の取引の主眼は転売だったとして、それまでに生じた賃料収入はあくまで「副産物」とした。その上で全額の控除を認めない国税当局の判断は「相当性を欠く」とし、課税処分の取り消しを認めた。
21年7月の二審・東京高裁判決は判断を一転。賃料収入が得られることが見込まれる場合は、仕入れ税額控除制度の対象外とするとして、同社側の逆転敗訴とした。
9日には、同じ論点が争われた不動産会社「ムゲンエステート」(東京)の訴訟の上告審弁論も開かれた。同社を巡る訴訟では、二審・東京高裁の別の裁判長が、制度の適用を認めない一方、過少申告加算税については違法とする判決を言い渡し、国税側が上告した。
最高裁は同日、いずれの訴訟も判決期日を3月6日に指定した。
(3)判決の影響は?

仕入れ税額控除制度を巡っては、20年4月の消費税法改正で仕組みが見直された。
中古マンションの売買は仕入れ税額控除制度の対象から一律で除外し、購入から原則3年以内に転売など消費税がかかる取引が行われた場合、事後の手続きで控除を認めることとした。今回の訴訟で争われたような問題が生じることはなくなった。
同様の訴訟は複数係属している。国税側の見解に沿って納税した事業者も、過去5年分までなら払いすぎた分の税額の返還を求める「還付請求」が可能なため、最高裁が原告側の請求を認める判断を出せば、還付請求手続きをとる事業者が出てくる可能性もある。
原告代理人の栗原宏幸弁護士は「どのような場合に消費税全額の控除が認められるかといった点について、最高裁が初めて考え方を示す可能性もある。内容によっては、事業者の消費税の計算に広く影響を与える判決になるのではないか」とみている。
(嶋崎雄太)
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