自宅を担保に資金を借り、死後に自宅の売却などで返すリバースモーゲージ(リバモ)の利用が広がっている。主に老後の資金を確保するのが目的だが、最近は住宅ローンを返済中の人が「借り換え」に利用するケースも増えている。その効果や注意点を探った。
「毎月の返済額が10分の1に減った」。千葉県在住の70代夫婦は住宅ローンからリバースモーゲージへと借り換えた効果を語る。50代で住宅ローンを組んだ当時は共働き。ところが夫婦とも体調を崩し収入が減り、毎月20万円の返済が厳しくなったため、リバースモーゲージを利用したという。
一般に住宅ローンからの借り換えでは、リバースモーゲージで借りた資金で住宅ローンの残りを返済。その後はリバースモーゲージの利息を毎月払い、元本は死後に自宅の売却などで返済する。自宅の売却でお金が余れば、相続人に渡る。通常、毎月の返済額は大きく減り、この夫婦の場合は利息のみで月2万円台になったという。

リバースモーゲージの融資は増えている。住宅金融支援機構の調査では2020年度末の残高は1600億円弱と、13年度と比べ約3.5倍に膨らんだ。中でも増えているのが、住宅ローンの借り換えだ。
住宅金融支援機構が民間金融機関と提供する商品「リ・バース60」の場合、22年7〜9月期で全体件数の23.6%を借り換えが占めた。新たに注文住宅を契約したり、新築マンションを購入したりする目的の比率が下がる一方で、借り換えは伸び続けている。別の枠組みのリバースモーゲージで高いシェアを持つ東京スター銀行も「借り換えは根強い需要があり、今後も増えそう」としている。
一般にリバースモーゲージは若くても50代からしか使えない。ファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子氏は「住宅ローンの返済に苦慮する熟年世代に、選択肢として知られるようになってきた」のが拡大の背景とみる。

総務省の家計調査をみると、住宅・土地関連の負債(負債のある2人以上世帯の平均)は世帯主が50代では21年で1174万円と5年連続で1000万円を超えた。60〜70代も約500万〜600万円だ。年金生活に入るなどして収入が減ると、返済の負担は軽くはない。
年金を受け取るような年齢になっても多額の住宅ローンを抱える世帯は今後も増えそうだ。都心部のマンションなどを中心に住宅価格の高騰は長らく続いている。コンドミニアム・アセットマネジメント(東京・千代田)の渕ノ上弘和代表は「晩婚化などもあり、以前より高い年齢で多額のローンを組む世帯が増えている」と話す。こうしたケースでは熟年期の残債が高水準になりやすい。
リバースモーゲージに借り換えるメリットは月々の返済負担の軽減だけではない。例えば、子どもがそれぞれ家を持っているなどし、親の自宅相続を望まないといった場合には、親が生前に自宅処分の道筋をつけられる。リバースモーゲージ契約では死後には元本返済のため相続人や融資した金融機関などの間で自宅処分の手続きが進むのが一般的。その結果、長期間、空き家になるのを避けやすくなる。相続人にお金を残すのもスムーズだ。

一方で注意点もある。まず、どんな住宅でもリバースモーゲージが利用できるとは限らない。建物や地域などの条件によっては担保としての価値が乏しく、借り入れができない場合がある。死後に自宅を売却する前提なら、子どもなど相続人に自宅を引き継げない可能性を伝えることも欠かせない。
住宅ローンからリバースモーゲージに借り換えると、返済する総額は膨らむ可能性が高まる。35歳で3000万円の住宅ローンを固定金利で年1.5%、35年の元利均等返済で借りた人が、60歳でリバースモーゲージ(金利年3%)に借り換え、返済中に金利の変動がなかった場合でみてみよう。
当初の住宅ローンの毎月返済額は約9万2000円。リバースモーゲージに借り換えると金利は上がるが元本返済がないため約2.6万円と3割弱に減る。しかし、払う利息の総額は、住宅ローンを70歳で完済した場合は約858万円なのに対し、リバースモーゲージ借り換えでは同時点で約1085万円(借り換え前に払った利息を含む)に増える。払う利息が増えればその分、子どもなどに残せるお金は少なくなる。
借り換えた場合にはさらに70歳以降も原則年30万円超の利息を払い続ける。借り換えから短期間で亡くなると支払う利息は少なくなる。だが、試算した例では当初の住宅ローンよりも支払利息の総額が上回る時期は約2年6カ月と早い。「60代など比較的早い時期に借り換えると利息では不利になりやすい」とコンドミニアム・アセットの渕ノ上氏は指摘する。

毎月の返済負担と利息総額の両方を抑える最善の方法は年金生活に入る時期までに住宅ローンを完済しておくこと。退職金での一括返済を考える人もいるだろう。だが一括返済にもリスクがある。手元の資金が枯渇し、その後の医療や介護など急な出費に対応できなくなる恐れがあるからだ。
FPの畠中氏は「住宅ローンの繰り上げ返済に回していいのは最大で退職金の4分の1程度まで」と助言する。繰り上げ返済により毎月の返済額を減らす一方、できるだけ就労期間を延ばして、毎月無理のない範囲で返済を続ける選択肢もある。
中高年、介護費のリスクも
貯蓄だけで不足するなら自宅売却も選択肢になる。リバースモーゲージに借り換えて抵当権が設定されている自宅も「売却したお金で元本を返済し、残った額を施設費用などに充てることは可能」(住宅金融支援機構)。ただ、リバースモーゲージは返済中に元本は減らない。売却で手元に残るお金は、借り換えない場合より少なくなる可能性はある。
コンドミニアム・アセットの渕ノ上氏は「借り換えた後、年数が経過して老朽化した自宅は市場評価が低下する可能性も念頭に置くべきだ」と話す。結果として借り換えを選ばず、早めに自宅処分をしておいた方が手にできる資金が大きく、入居する介護施設の選択肢などが増える場合もある。
今や男性も4人に1人、女性は2人に1人が90歳まで生きる長寿社会。介護や医療などの都合で、自宅が「終(つい)の棲家(すみか)」とはならない例も増えていることはリバースモーゲージ借り換えの前には考えておきたい。
(住宅問題エディター 堀大介)
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