海外の主要国ではすでに着用義務が撤廃されたが、早々にノーマスクが広がった欧米に比べ、アジアの国々では撤廃後もマスクを外さない市民が多い。各国のマスク事情には国民性などのお国柄も反映されているようだ。
「ようやく息苦しさから解放され、車内でリラックスできる」。ドイツは2日、新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて2022年10月に導入した長距離電車・バス車内のマスク着用義務を撤廃した。高速鉄道「ICE」の車内では乗客がノーマスクで会話や食事を楽しんだ。ルールを重んじる国民性で、解除となれば外すのも早い。
未着用者に50ユーロ(約7000円)の罰金を科していたヘッセン州は2日、地下鉄や路面電車など州が管理するローカル交通機関でも着用義務を解除した。地下鉄でマスクを着用していた乗客は2割ほど。欧州規格の「FFP2」マスクを装着していた男性会社員は「撤廃されたとは知らなかった」と首をかしげた。
欧州では多くの国が22年に新型コロナとの共生路線を進めた。脱マスクに踏み切るのが早かったのは英国だ。22年1月下旬にマスクの着用義務を撤廃し、2月に全ての規制を解除した。地下鉄でもマスクをする人は少数派だ。英国国家統計局のアンケート調査によると、22年12月21日から23年1月8日に公共交通機関でマスクを着用した成人は14%にとどまった。

ドイツの長距離電車の乗客はほぼマスクせず(2日、フランクフルト中央駅)
米国でも22年3月までに全50州で着用義務がなくなった。コロナ危機の初期に世界最大の感染地となったニューヨークでも、いまやマスク姿は少数派だ。
欧米とは対照的に、アジアの多くの国ではなおマスク派が主流だ。
韓国は1月30日に2年余り続いた屋内でのマスク着用義務を解除した。医療機関や公共交通機関の中以外ではマスク着用が「勧告」となり、着用するかどうかは個人の判断に委ねられる。屋外では22年9月に着用義務が解除された。
だが、解除後もマスクを着用した市民の姿が目立つ。解除初日のソウル市内の百貨店では来店客の9割以上がマスク姿。聯合ニュースによると、ロッテメンバーズのアンケート調査では66%が解除後もマスクを着用するつもりだと回答した。
ソウル中心部などでは屋外でもマスクを着けて歩く人が多数派だ。「周りが着けているから外せない」といった声もある。韓国人も日本人と同様に「空気を読む」傾向が強く、同調圧力や他人の目が人々の行動に影響しているようだ。
タイの首都バンコクでも8~9割が自主的にマスクを着用している。タイ政府は22年6月に着用義務を解除したが、政府が推奨する電車やバスだけでなく、路上や店舗でも着用するのが一般的だ。
公園ではジョギングの際に外す人も多いが、運動が終われば再び着用する。50代の女性会社員は「コロナ感染が怖いし、マスクをしていないと周囲の目が気になる」。マスクをしていない人の多くは外国人観光客だ。
中国でも外出時にマスクをする市民は多い。政府はマスクを「推奨」にとどめているが、1月下旬の春節(旧正月)の連休期間も観光地ではマスク姿が目立った。新型コロナを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終了し、市民の間で感染への警戒が強まったことも理由と考えられる。
インドでは22年4月にデリー首都圏や、商都ムンバイのある西部マハラシュトラ州でマスクの着用義務が撤廃された。感染再拡大のおそれからデリー首都圏では再び着用が求められるようになったが着用はほとんど広まらず、同年のうちに解除された。
同志社大の太田肇教授(組織論)は、各国のマスク事情について「欧米は顔を出すことが個人のアイデンティティーに直結するため、義務がなくなれば当然外す。アジアはアイデンティティーとして顔を出すことを重視せず、共同体の中に隠れていたいという感情を持つ」と分析する。その上で「日本や韓国で個人の判断に委ねても、なかなかマスクを外せないのではないか」と指摘する。
(佐堀万梨映、フランクフルト=林英樹、ソウル=細川幸太郎、バンコク=村松洋兵)
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