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ホテルREITの短い旬 「旅行支援」効果、いずれ剥落

新型コロナウイルス禍からの経済回復の波に乗って買われ続けた一方、人件費の高騰や政府の旅行支援策の効果剥落(はくらく)がリスクとして意識されている。金利上昇がREIT市場の逆風になる中で消去法的に投資マネーが流入してきた分、過熱警戒感も強い。

 

「含み益のあるうちに売るべきかどうか」。個人投資家のtoruneさん(ハンドルネーム)は所有する主力のホテル系REITインヴィンシブル投資法人(INV)の扱いに苦慮する。2日はINVやジャパン・ホテル・リート投資法人(ホテルリート)の投資口価格が前日比1%前後下がり、下落率は東証REIT指数(0.2%)を上回った。

これらのホテル系REITは新型コロナの水際対策緩和、感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行するといった動きを追い風に買われ続け、2021年末からの上昇率は5割前後に達した。「コロナショック」直前にあたる20年初め以来の高値圏だ。人流の回復でホテルの稼働率が上向き、業績も回復傾向にある。

市場ではこうした「旬」が長続きしないとの見方が多い。UBS証券の竹内一史氏は「国の旅行支援はいずれ打ち切られる。訪日需要の回復と『ダブル』で恩恵を受けられるのは今だけだ」と指摘する。訪日客に恩恵となる円安も一服している。

さらに重くのしかかるのが人手不足だ。竹内氏はホテル・飲食・サービス業の就業者数が19年から22年9月にかけて7%減少したことに注目する。コロナ禍で大きく減少したあとも戻りが鈍く、パート時給などの上昇で追加の雇用コストが一段と増す懸念がある。

物価上昇で消費者の生活防衛意識が強まり、旅行支出が減る可能性もある。JTBが23年の旅行動向の見通しについてまとめた調査によると、旅行への支出を「減らしたい」とした回答が44%を占め、前年から10ポイント増加した。

 

こうした不安要因を考慮すると、今の価格水準は実力以上との見方が多い。もともとREIT市場は金利上昇やオフィス市況の悪化で投資家心理が冷え「消去法的にホテル系が買われてきた」(岡三証券の並木幹郎氏)面がある。

過熱感は指標にも表れている。株式のPBR(株価純資産倍率)に相当する「NAV倍率」はホテル系の平均(1月末時点、岡三証券調べ)で1.1倍台と、市場平均(0.9倍台)を上回る。「目安の1倍を超え割高感が意識されやすい」(しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹氏)

息切れ感の打破に欠かせないのが、コロナ禍で長く止まっていたREITの成長投資の再開だ。ホテルリートは1月20日、同投資法人として19年以来となる新規物件の取得を発表した。業績回復を成長につなげようと、手元資金と借入金を原資に金沢市のホテルを約20億円で取得した。市場はこれを評価し、発表の翌営業日に投資口価格は6%上がった。

ホテル系REITの大半はコロナ禍で物件売却などの「守り」を固め、成長投資は限定的だった。岡三証券の並木氏は「投資口価格が高い今のうちに増資するという考え方はある」と指摘。ホテル需要の持続性に不透明感が漂う中、市場は各銘柄の成長性を見極めている。

(小池颯)