住宅の価格高騰と狭さが子どもを産もうという心理を冷やしている。若い世代では理想の数の子どもを持たない理由として「家が狭いから」と答える人が2割を超えた。家の狭さや長い通勤時間が第2子の出生を抑制するという分析も出た。岸田文雄首相の「次元の異なる」少子化対策を効果あるものにするためには空き家活用など住宅政策との連携が欠かせない。
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、2022年の首都圏の新築マンションの平均価格は6288万円と2年連続で過去最高を更新した。上昇率は前年比0.4%増と微増だが、専有面積の平均は同1%減の66.1平方メートルと10年前と比べて6%狭くなった。一般的には2LDKの広さだ。「間取りなども、子を複数もつ世帯を想定した物件が減っている」(都内の不動産仲介会社)
「実質値上げ」
住宅コンサルタント、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「面積を狭くし、表面的な価格の上昇を緩やかに見せる『実質値上げ』が目立つ」と指摘する。
東日本不動産流通機構によると、22年に成約した首都圏の中古マンションの平均面積は63.59平方メートル。近畿圏でも持ち家の価格高騰と住居が狭くなる傾向が目立つ。賃貸住宅も広さを確保するのは難しく、総務省の住宅・土地統計調査によると、延べ床面積は49平方メートル以下が約6割に上る。
国が「豊かな生活」の目安として定める住居の面積は都市部の夫婦と3~5歳の子の3人家族で65平方メートルだ。2人以上の子を持ち、快適に過ごせる住まいの確保がすでに難しくなっている。
国立社会保障・人口問題研究所の21年の出生動向基本調査では「理想の数の子どもを持たない理由」のうち「家が狭いから」が若い世代(妻が35歳未満)で21.4%に上昇。02~15年の調査では18~19%台だった。
財務省の21年の研究では、第1子出生時点の住居が狭いほど、第2子出生数が抑制される。郊外に出れば住宅費は下がるが、同研究によると、都市部では配偶者の通勤時間が10分長くなると、第2子の出生数が4%抑制されるという。

同省の内藤勇耶研究官は「若い子育て世帯など対象者を絞ったうえで、企業による賃貸住宅手当や持ち家手当の増額、都心部での社宅や公営住宅の整備が有効」と話す。
共働きで東京都心に勤める40代の女性は、通勤時間を考慮して中央区の中古マンションを21年に購入した。55平方メートル・2LDKの間取りに夫と子どもの3人で暮らす。「2人目はないと決めている。もう1部屋増やすなら、2000万円は上乗せしないと買えない」
空き家改修も
問題の解決には少子化対策と住宅政策の連携を深めることが必要だ。欧州連合(EU)のなかでも出生率が高水準のフランスでは、所得などに応じた子育て世帯への住宅手当がある。日本国内には約849万戸の空き家があり、一部地域では改修して子育て世帯向けに貸す動きもある。
岸田首相は1月31日の衆院予算委員会で「若者の賃金を上げ、住宅の充実をはかる取り組みは、結婚して子どもを持つ希望をかなえる上で大変重要な要素だ」と述べ、結婚を控えた若いカップルや子育て世帯への住宅支援を拡充する意向を示した。斉藤鉄夫国土交通相も30日、子育て世帯が公営住宅に優先的に入居できる仕組みを検討することを表明した。
ただ、少子化の大きな要因として、経済的な理由で若い世代の子どもを持ちたいという意欲が減退していることがある。安心して結婚・出産できる環境を整えるには、賃上げなどにより若い世代の所得を向上させることが何よりも不可欠だ。
日本では一定の収入がある共働き世帯でも、住宅は割高かつ手狭な状態から抜け出せていない。住宅の購入価格が世帯年収の何倍かを示す年収倍率をみると、日本は21年時点で6.83倍と先進国でも高い。調査した年は異なるが、例えば米国は5.07倍、英国5.16倍、フランス6.14倍だ。日本は1戸当たりの床面積でも最低だ。
世界では住宅費と出生率の研究が進む。米連邦準備理事会(FRB)の経済学者らは14年の論文で「住宅が1万ドル上昇すると、持ち家がない家庭の出生率は2.4%下がる」と分析した。英国でも同様の研究がある。
(住宅問題エディター 堀大介、福山絵里子)
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