「マンション節税策はどうなるのか……」。2022年の年末以降、不動産業界や税理士などの間で「タワマン節税」などと呼ばれる相続税の節税策が話題となり、様々な臆測が飛び交っている。
税制改正大綱、ルール見直しを検討
発端は22年末の23年度税制改正大綱で、「マンションの相続税評価について」と記載された短い文章があり、それが原因だ。内容はごくシンプル。「マンションについて、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離(かいり)しているケースが見られる。(中略)相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえて適正化を検討する」
要は、高値で取引されているマンションが相続税の税金計算上では安くなってしまっているので、ルールの見直しを検討していく、というものだ。
相続税は親などから相続した財産、負債を基に計算する。プラスの財産(現預金、不動産など)からマイナスの財産(借金など)を差し引いた額が相続財産だ。基礎控除という非課税枠(3000万円+600万円×法定相続人の数)があり、これを超えた財産に一定の税率(10〜55%)を乗じることなどで算出する。
21年に亡くなった約144万人のうち、財産が相続税の課税対象となったのは約13万人。課税割合は約9%で10年前と比べて2倍以上の増加だ。東京国税局管内では約15%に上る。
不動産の時価をどう評価?
相続税を巡っては、様々な手法の節税策がある。親子共々海外に移住するような極端なケースを除けば、財産を合法的に目減りさせることが最もポピュラーな手法となる。不動産節税もその1つで、現金などを不動産に変えることで、財産が目減りするという効果を狙う。
どうしてそんなことができてしまうのか。相続税法22条は、相続財産は「時価」で評価すると規定する。この時価というものが、節税策での"肝"となる。例えば、1億円の現金であれば、時価も1億円だ。上場株の場合も明確な市場価格があり、それに基づいた算定ルールがあるため評価が分かれることはほぼない。
ただ、これが不動産となった場合には状況が一変する。不動産は一物四価とも言われ、定まった価格がない。そのために、国税当局は納税者側が評価額を算定しやすいように財産評価基本通達というものを公表している。原則的に、この通達に基づいて計算すれば、その評価額を時価とする運用となっている。
この通達に沿って計算すると土地の持ち分割合が少ないタワーマンションなどの場合、売買価格が1億円でも評価額が2000万円台になってしまうことがある。あくまで相続税の計算のための評価額が目減りするだけで、実際の価値が下がっているわけではない。「評価額が売買価格の4分の1になるようなケースもある」(相続税に詳しい税理士)。さらに銀行からの負債を含み合わせることで、相続税をゼロにしてしまうような事例もあり、昨年、大きな問題となった。
有識者会議で見直し議論
こうした事態を受けて、国税庁は、そもそも売買価格と評価額が極端に乖離してしまう現状の通達の評価方法に一定の問題があるのではないかなどという観点から、評価手法の見直しに着手することになった。1月30日に学者や不動産鑑定士などで第1回の有識者会議を実施した。
「現在の通達を見直して、売買価格に近づけるような制度になるのではないか」(OB税理士)。評価額が増えることで、相続税負担が増える可能性が高くなる。富裕層などにとっては課税強化となる。
相続税などに詳しい山下貴税理士は「現状の評価手法は基本的に評価の安全性(時価を超えない)が確保されており、実務的にも合理的なものだ。本当に見直す必要があるのかどうか、精緻な議論が必要だ」としたうえで、「通達は全国一律のものであり、見直しの趣旨に沿わない物件も多い。不動産市況にもマイナスの影響を与えかねず、制度改正の副作用も十分に検討すべきだ」と指摘した。
(企業税務エディター 川瀬智浄)
[日経ヴェリタス2023年1月29日号]
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