新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間は権利行使を差し控えていたが、不動産業界有数のこの寛容な措置を徐々に終わらせる。同社幹部は解約請求が急増している不動産投資ファンドの運用益がこれで増えると期待する。
ジョージア・フロリダ両州の裁判所の記録によると、ブラックストーンのグループ企業が2022年8月以降、毎月数十人の入居者に対し法的手続きをとっている。平均的な週の手続きの件数は22年1〜7月の合計数より多い。
関係者の話では、ブラックストーンの代理人を務めるコンサルタントもカリフォルニア州内の地方議員に対し、賃料の滞納が多い地域で立ち退き件数が増える可能性があることを通告しているという。
ブラックストーンは歴史的に見て非常に細分化された米国の不動産市場で、地元の家主より世間の厳しい目にさらされながら運用益の最大化を目指している。同社の入居者に立ち退きを求める動きは米国有数の不動産オーナーが直面する難しい課題を示している。
パンデミックの間、ブラックストーンは数十億ドル相当のアパートや郊外の住宅などを取得した。多くは富裕層向けの非上場の不動産投資信託(REIT)である「BREIT」を通じた購入で、ファンドの純資産総額は690億ドル(約9兆円)になる。ところがBREITから資金を引き揚げようとする投資家が相次ぎ、同社は12月に解約を制限した。
多くの家主はすでに家賃徴収を再開
12月に行われた世界各地の従業員向けビデオ会見で、不動産部門の米州責任者ナディーム・メグジ氏はファンドの運用成績への懸念を払拭しようとした。会見後にフィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した詳細な情報によると、メグジ氏は立ち退き要求を再開した理由を住宅ポートフォリオの「キャッシュフローの増加に自信を持つ」ためだとした。
同氏はブラックストーンが「この2〜3年の自発的な立ち退き猶予措置を終わらせようとしていることで、(実際の家賃収入から計算した)経済稼働率に有意な増加が見られる」とも述べた。
パンデミックの初期は連邦法で家賃滞納者の立ち退きが禁止されたが、この猶予措置は1年以上前に失効した。一部の自治体は同様の措置をより長期間導入していたが、それも失効している。
米国には全国レベルの立ち退きに関するデータは存在しない。ただ米プリンストン大学の「立ち退き研究所」が9つの州の裁判所の記録を調査した結果、多くの家主が何カ月も前に通常の家賃徴収を再開したらしいことがわかった。
パンデミックが始まった直後は立ち退き件数がほぼゼロだったが、20年夏には急増した。同研究所がまとめた週ごとの件数は21年を通して増加し続け、22年夏にパンデミック前をやや下回る水準で横ばいになった。
不振のREITを尻目に運用利回り8.4%を確保
対照的に、ブラックストーン独自の経済的困窮者向けの支援策は連邦・地方政府の措置より早く始まり、法定期間よりはるかに長く続いた。中身も大半の家主の支援より幅広いものだった。クレジットカード手数料や滞納への罰金を免除し、中途解約に応じたほか、同居人を増やすことも認めた。2年以上家賃を滞納した入居者も立ち退かせることはなかった。
これらの支援策には多額の費用がかかったが、それでもブラックストーンの不動産投資のリターンは上場不動産投資ファンドを上回った。同社幹部は金利上昇の予想が当たったほか、米国の西部や南部で人口が急増している地域に投資を集中させたことが奏功したと話している。
米指数算出会社MSCIが集計している多くの上場REITの時価総額は22年に約4分の1減少したのに対し、BREITの運用利回りは8.4%だった。
株式市場で取引され価格が変動するREITと異なり、BREITの投資家は毎月限られた数の株式をファンドの帳簿に載っている金額を反映した価格で売却できる。
だが12月に多数の解約請求を受けたため、ブラックストーンは解約を一部制限した。
FTが確認した立ち退き訴訟はジョージア州アトランタ周辺のいくつかの郡と、フロリダ州の市街地の物件に関連したものだ。これらはブラックストーンが不動産を所有する地域のごく一部にすぎない。
選挙区内の猶予終了を懸念する市議
不動産を所有する機関投資家を監視する非営利団体「プライベート・エクイティ・ステークホルダー・プロジェクト」のジム・ベイカー代表は「ブラックストーンが住宅市場で果たす大きな役割を考えると、立ち退きを求める最近の動きは米国内外で住宅の安定供給を脅かす」と懸念する。
ブラックストーンはFTへの声明で「当社は米国の大規模な家主の中で最も入居者に有利な条件を提示していると考えている」と述べた。「立ち退きは常に最後の手段であり、毎回入居者には柔軟な支払計画や賃料の免除など様々な選択肢を提示してきた」
ブラックストーンはカリフォルニア州エスコンディード市で地元の非営利団体と契約を結び、10億ドルでアパート数軒を購入した。コンスエロ・マルティネス市議は同社の代理人のコンサルタントから連絡を受け、自身の選挙区での入居者への包括的な立ち退き猶予措置が終了したと告げられたと話す。
マルティネス氏は通告を「深く懸念している」とコンサルタント側に伝えた。「彼らはパンデミックの期間中は家賃を徴収できたにもかかわらず支払いを求めず、入居者に協力してきたと説明した」という。
マルティネス氏はコンサルタントの言葉を覚えている。「これからは支払いを求める。もし家賃が払えず滞納分を精算できそうにないなら、そのときは仕方ないが立ち退いてもらう」
By Mark Vandevelde
(2023年1月30日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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