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物件選びは資産性より「住みたい街」、予算にらみ妥協も マンション売買の勘所①

「新築も中古も高い。どのマンションを買っても将来値下がりしそうで怖い」。東京都内に住む40代の男性は途方に暮れる。

東京カンテイ(東京・品川)によると、2022年に東京都区部で販売された新築マンションの平均価格は1坪(約3.3平方メートル)当たり約433万円。3LDKで一般的な70平方メートル換算で約9200万円と、10年前より6割高い。中古価格も10年で7割上がった。値上がりは都区部にとどまらず、首都圏全体にも及んでいる。

最近は長期金利が上昇し始め、将来のマンション価格の下落リスクが気になる局面でもある。いずれ売ることがあっても価格が保たれていそうか、「資産性」を家探しの最優先事項にしたくなりがちだ。

まずは購入目的を明確に

ただ居住用のマンションは本来、暮らすために買うもの。「その街のマンションが本当に欲しいのか、自分でしっかり考える必要がある」(リクルートの池本洋一SUUMO編集長)。例えば飲み屋が多い街に割安なマンションがあったとしても、子育て目的の人が安易に購入するのはお勧めできない。自分は何のためにマンションを買うのか、どんな街に住んだら理想の暮らしを実現できそうなのか。具体的な物件探しを始める前にこれらを明確にする必要がある。

住みたい街を決めるのと並行して重要なのが、予算の設定だ。一般的には、毎月のローン返済額を手取り収入の25%程度までにとどめるのが目安とされる。夫婦そろって手取り月収が50万円ずつあるようなパワーカップルの場合、今の低い変動金利を前提にすれば、ペアローンで計1億円借りても当初の返済額は25%程度に収まる計算になる。

ただペアローンの場合、出産や育児によって思うような働き方ができなくなり、収入が想定より減ってしまうリスクには注意が必要だ。子供を中学受験させた結果、教育費が膨らんでローンの支払いに余裕がなくなる、というケースも考えられる。機械的に「目先の返済額が25%以内だから大丈夫」と考えるのではなく、「将来にわたって必要な資金やリスクを十分に洗い出し、余裕を持って住宅ローンを完済できる範囲で予算を決める必要がある」(ファイナンシャルプランナーの有田美津子氏)。

予算が決まったら、住みたい街のマンション価格を調べてみよう。インターネット上の大手情報サイトをみれば大体の相場が分かる。

予算内に収めるための「妥協」も視野

その上で予算オーバーだった場合、何らかの「妥協」が必要になる。おすすめは、「住みたい街よりも相対的に相場が安い、近隣のエリアに選択肢を広げること」(リクルートの池本氏)。さいたま市の浦和駅が最寄りのマンションを探していた人が、南浦和駅周辺でも探すようなイメージだ。新築限定で探していた人の場合、相対的に安い中古も選択肢に入れると予算に収まりやすくなる。

最寄り駅からの距離が遠い物件なら予算内に収まるケースもあるが、そういう妥協は「あまりおすすめできない」(東京カンテイの井出武執行役員)との声が多い。築10年の中古マンション価格が新築時からどの程度変化したかを調べた東京カンテイのデータによると、最寄り駅から徒歩6分以内の物件は平均で4割以上値上がりしていたのに対し、徒歩21分以上の物件は2割程度の上昇にとどまる。住みたい街の「駅遠物件」より、近隣エリアの「駅近物件」の方が一般的には資産性が期待しやすい。

周辺エリアや中古物件を含めても予算に届かない場合、別の地域にも目線を広げる必要がある。そのためには「新築マンションのモデルルームを訪問するのが近道」(「ふじふじ太」の名前で活動するマンションアドバイザーの藤田祥吾氏)。不動産会社はマンションの購入意欲を高めるために、その街の魅力を詳しく調べているためだ。モデルルームを訪ねたついでに、営業マンから聞いたおいしいスイーツ店や子供を遊ばせる公園などに足を運び、実際の生活をイメージしてみよう。

近隣中古の成約価格を調べよう

住みたいエリアで予算内のマンションが見つかった場合でも「価格が割高なのでは」と気にして買う決断ができない人も多い。参考になるのが、同じエリアの中古物件の「成約価格」だ。いま新築で販売されているマンションの価格が、駅からの距離などの条件が似た中古物件の成約価格より大幅に割高なら、将来的に大きく値下がりするリスクが高い。中古物件の場合も、同じような築年数の成約事例と比較することで、売り出し価格の妥当性をチェックできる。

「最近は中古マンションの相場が短時間で大きく変動しているため、2〜3カ月以内の成約価格でないと古くて参考にならないケースが多い」(藤田氏)点には注意したい。個人が詳細な成約事例を調べるのは難しいため、不動産会社や仲介業者に聞くのが手っ取り早い。

すでにマンションを持っている人が、住み替えのために別のマンションを購入する場合も、今住んでいるマンションの中古取引の成約事例を調べておきたい。現住居を売却する際の価格設定の参考になるためだ。相場より大幅な高値で売り出してしまい、買い手が現れないといった事態を避けるのに役立つ。自分の住むマンションの成約事例がみつからない場合、駅距離や築年数などの条件が似た近隣物件の事例を探すのが一般的だ。

最近は人工知能(AI)を使い、売却価格を無料で査定してくれるサービスも多いが、業者によってはじき出される金額に大きな幅が生じることもある。AI査定を参考にしても、最終的には「成約価格を重視したほうがよい」と話す専門家が多い。

住宅ローン、「変動」にメリット

マンション購入時には住宅ローンも重要なポイント。一般的に新築・中古とも購入前に金融機関の事前審査が必要だ。特に注意したいのが中古を探す場合で、買いたい物件が見つかった後に事前審査を申請しているようでは、他の購入希望者に先を越されてしまう恐れがある。借り入れ希望額を予算上限に合わせたうえで、事前審査は物件探しの前に済ませておきたい。

住宅ローンを借りる金融機関は「まずは金利や手数料の低さで選んでよい」(ファイナンシャルプランナーの有田美津子氏)。悩みどころは変動と固定、どちらの金利で借りるかだ。日本の長期金利に上昇圧力がかかる中、すでに固定金利は上がり始めている。いずれ変動金利も上がる可能性があるため、今のうちに固定金利で借りた方が安全という発想もある。

ただ変動の場合も毎月の返済額がいきなり急増する懸念は小さい。変動金利は一般的に半年ごとに見直されるが、上昇した場合も当初5年間の返済額は変わらず、5年経過後の返済額も従来の25%増までに抑制されるというルールを設ける金融機関が多い。

足元の変動金利は最も低いケースで年0.4%以下なのに対し、住宅金融支援機構が提供する35年固定の住宅ローン「フラット35」は融資率90%以下で1.68%。5000万円を35年で借りるケースだと、月々の支払額は変動の方が3万円ほど安くなる。収入が多く返済能力が高い人なら、変動金利を選ぶことで「ローンの元本を速いペースで減らせるメリットを享受できる」(有田氏)。もちろん変動金利が上昇すれば当初の返済額が増えなくても元本は減りにくくなるため、借入額にはある程度余裕を持たせたほうが安全だ。

住宅ローン減税の活用を

ローンを組んでマンションを購入した後は、住宅ローン減税が活用できる。借入期間が10年以上など一定の要件を満たせば、原則として住宅ローンの年末残高の0.7%相当が所得税や住民税から差し引かれる。

控除期間や金額は新築と中古で異なる。新築の場合、長期優良住宅や低炭素住宅の認定を受けたマンションなら最大計455万円分の控除を受けられる。購入を希望するエリアで該当する物件が販売されていれば選択肢として検討する価値はある。新築の場合、23年中に入居した方が24、25年に入居するより控除額が多くなる点にも注意したい。

中古は新築より控除期間が短く、金額も小さくなる。宅地建物取引業者が売り主となり一定のリフォーム工事を済ませた買い取り再販物件であれば、新築と同じ条件で控除を受けられるが、そうした物件は一般的な中古よりも高値で販売されていることが多い点には留意したい。

(蛭田和也)

[日経ヴェリタス2023年1月29日号]