4人は35億円の被害が確認されている特殊詐欺グループの一員とみられる。日本で逮捕状が出ており、身柄引き渡しに向けた調整が進む。日本の警察当局は4人の中に「ルフィ」などと名乗り、広域強盗の実行犯に指示を出していた人物が含まれるとみて、移送後に取り調べを本格化させる見通しだ。
警視庁は31日、4人は渡辺優樹容疑者(38)、今村磨人容疑者(38)、小島智信容疑者(45)、藤田聖也容疑者(38)と明らかにした。2019年に都内の住民からキャッシュカードを盗んだなどとして窃盗容疑で逮捕状が出ている。4人は特殊詐欺グループの幹部とみられる。
警視庁はグループによる被害が18年11月から20年6月ごろにかけて約2300件、被害額約35億円に上るとみている。
4人の移送は両国政府間の協議に基づく。日本が犯罪人引き渡し条約を締結しているのは米国、韓国の2カ国だけでフィリピンとは結んでいない。
しかし非締結国でも、現地の当局による容疑者の拘束などを経て身柄の引き渡しを受ける事例は少なくない。日本の捜査当局から犯罪事実などの情報を事前に提供し協力を求めるのが一般的だ。
移送までにかかる時間はケース・バイ・ケースだが、4人の送還時期を巡っては、レムリヤ法相が30日の記者会見で、2月第2週に予定されているマルコス大統領訪日までの解決を目指す考えを示した。同国側の事情も考慮しながら移送の日程が調整される公算が大きいとみられる。
フィリピン当局は19年11月、マニラ首都圏で現地から日本に詐欺の電話をかけていた36人の日本人の男を拘束した。4人は36人の上役だったとみられているが、フィリピンで刑事裁判を抱えるなどしていたため、拘束されたまま移送は実現していなかった。一方で、36人は20~21年に全員が日本に送還され、警視庁に逮捕された。
4人についても、移送後は日本の捜査当局が身柄を拘束し、関係者の供述などを裏付けるため取り調べることになる。まず特殊詐欺事件について取り調べ、その後に広域強盗事件への関与の有無について捜査に乗り出す見通しだ。
過去に別の事件でフィリピンから移送された容疑者も同様の経緯をたどっている。
17年に積水ハウスが東京都内の土地取引を巡り「地面師」グループの巨額詐欺被害に遭った事件では、主導役とされた男が関係者に対する強制捜査の直前の18年10月に日本を出国。フィリピンに渡ったが、同年12月に同国の入国管理当局に拘束された。
入管の国外退去処分を受け、19年1月に日本へ移送されて逮捕された。その後、詐欺罪などで起訴され、21年に懲役11年の有罪判決が確定している。
警察庁によると、一連の強盗事件は22年10月以降に少なくとも関東地方や西日本の8都県で14事件発生している。これとは別に6府県で関連が疑われる強盗や窃盗事件が起きている。東京都狛江市では1月19日、住人の女性(90)が殺害され、腕時計などの金品が奪われる強盗殺人事件が発生した。
広域強盗事件では一部の実行役が匿名性が高い通信アプリ「テレグラム」などで「ルフィ」や「キム」と名乗る人物から指示を受けていたことが判明。ルフィやキムがフィリピンを示す国番号「63」の電話を使っていたことから、警察当局は4人の中に指示役がいる可能性が高いとみている。複数の人物がルフィを名乗った可能性もある。
今後の捜査では、関係者の供述や摘発された容疑者の携帯電話の解析などから、狛江市の事件などの指示役を突き止め、犯行グループの指揮系統を解明できるかが焦点となる。仮に指示役を割り出すことができても、さらに上役がいる可能性も否定できない。
被害の拡大を防ぐためにも、犯罪グループの全容を解明し壊滅的なダメージを与えることが重要となる。
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