「節税対策を考えるなら、生命保険は選択肢の一つになります」。相続に関するセミナーで講師を務めることが少なくない税理士の福田真弓氏はこう助言するという。親から子に財産を現預金のまま渡すより、生命保険に変えておくことで税負担を軽減できるからだ。死亡保険金には一定の非課税枠があり、その分だけ相続税を少なくするメリットがある。
死亡保険金は被相続人(亡くなった人)の財産ではないが、相続税の計算上は相続財産に見なされる。ただし「500万円×法定相続人の数」までの金額は課税されない。2人なら1000万円、3人なら1500万円と人数が増えれば非課税枠は大きくなる。対象は死亡保険金で医療保険の給付金などは該当しない。死亡した人の財産の額などに関係なく、法定相続人なら誰でも利用できる。
「知らない」6割 名義で課税に違い
しかし生命保険文化センターの調査では、同制度について「知らなかった」との答えが6割に上った。利用者は少なく、「父親が先立った後に母親が亡くなる際の相続では保険に加入していないケースが特に目立つ」と司法書士の勝猛一氏は言う。夫婦で残された人が亡くなる2次相続では、1億6000万円か法定相続分のどちらか多い金額までの財産額なら相続税がかからない「配偶者の税額軽減」が使えないので、子らの相続税額は大きくなりがち。生命保険を活用すれば一定の節税効果が見込めそうだ。
5000万円の自宅と2000万円の預金があり、子が2人いる70代の女性Aさんを例に挙げよう。Aさんが生命保険に入らずに亡くなれば、子が払う相続税は単純計算で160万円ずつになる。
Aさんが元気なうちに預金を使って仮に保険金1000万円の一時払い終身保険に加入すれば、払った保険料(960万円)が保険金に置き換わり、非課税枠(500万円×2人)の分だけ税負担が軽減される。子の相続税は92万円ずつに減る。「運用益はそれほど期待できないが、うまく利用すれば相続税が減らせる」とファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は話す。今は80代になっても入れる保険がある。
「注意したいのは入り方によって保険金に課される税金が変わる点」と福田氏は指摘する。保険の名義には保険料を払う契約者、保険の対象となる被保険者、保険金を受け取る受取人の3つがあり、相続税がかかるのは契約者と被保険者が同じとき。Aさんのような親子なら名義が親、親、子になる。非課税枠を使うには受取人が法定相続人でないといけないので子の配偶者や孫などは対象外だ。合致していなければ名義を変更する必要がある。
保険料肩代わり 早めに着手
保険の入り方で税金が変わる特徴を生かした節税策に「保険料贈与プラン」などと呼ばれる仕組みがある。すでに500万円の非課税枠いっぱいに保険に加入している人や富裕層が、もっと多くの財産を減らして節税したいと利用するケースが多いようだ。「死亡保険金にかかる税金が所得税となり、相続税の負担より小さくなる場合がある」と税理士法人レガシィの陽田賢一税理士は説明する。
具体的には親が子に保険料に見合う金額を贈与し、子が契約者と受取人、親が被保険者となって保険に加入する。贈与で親は財産を減らし相続税を少なくできる。年110万円の基礎控除の範囲で贈与をすれば贈与税はかからない。基礎控除を超えても310万円までなら最低税率の10%で済み、少ない税金でより多くの相続財産を減らすことができる。
子が受け取る保険金には所得税と住民税がかかる。この場合の保険金は一時所得となる。税額は支払った保険料などが保険金から引かれ、さらに半分に軽減された金額に課税されるので小さくなりやすい。非課税枠を超えた保険金にかかる相続税よりも支払う税金が少なくなることがある。複雑なので税理士ら専門家に相談してから利用したい。
今回の税制改正を受け、暦年贈与で贈与された財産を相続財産に加えて相続税の対象とする期間が現行の死亡前3年以内から7年以内になった。2024年の贈与分から対象になる。陽田氏は「保険料贈与も早めに着手する必要がある」と指摘する。(土井誠司)
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