不動産大手のヒューリックは高級商業地、東京・銀座地区で再開発を加速する。保有する40棟弱のうち約4割を建て替える方針で、総事業費は3000億円を超える。2023年以降に順次完成させ、回復が見込まれる訪日観光客も取り込む。にぎわいを生み出し「銀座の大家」の地位を一段と固める考えだ。
ヒューリックは現在、銀座や有楽町地区に「リクルート銀座8丁目ビル」など37棟を持つ。老朽化が進み耐震性能に劣る物件も多く、29年までに少なくとも14棟を建て替える。
中央通りのみずほ銀行支店跡地では高級旅館を入れた複合ビルを建設。複合ビル「銀座コア」にも約500億円を投資し、27年ごろに12階建ての施設を建てる。高級ブランドのティファニーが入居するビルも中長期的に建て替える可能性がある。
不動産関係者の間では今や「銀座の大家はヒューリック」といわれる。西浦三郎会長は旧富士銀行で銀座・数寄屋橋の支店長を経験し、約17年前にヒューリック社長に転じた。「後発で(他の大手の)進出が少なかった街は銀座くらいだった」と振り返る。三井不動産は日本橋、三菱地所が丸の内、東急グループは渋谷で大規模開発を進めるなか、当時は2物件しか保有していなかった銀座に着目した。
銀座は「昔ながらの気難しい店主や地権者が少なくない」(銀座の関係者)。当初は地権者の間での信用力が乏しいうえ「縦に細くて長いペンシルビルが多いため取得・開発しても収益は出なかった」(西浦会長)。
町内会などに入り、中央区とも連携して中長期的な街づくりに向けた考えを説いて回った。取得物件が増えてくると「決断が早い」と評価も上がり、案件が舞い込むようになった。再開発物件に欧米の高級ブランドなどが入居し収益性も高まった。
西浦会長は「銀座では決して大きいビルが求められるわけでなく、話題性のあるビルが必要だ」と話す。21年秋に完成させた日本初の耐火木造12階建ての商業ビルに、米アップルの「アップルストア」が入居したような事例を増やす。
課題は建て替えが増える期間中の賃貸収入の落ち込みだ。ヒューリックは特別目的会社(SPC)を通じて21年に電通グループの本社ビル、22年12月には「大手町プレイス」の政府保有分を取得。不動産業界では大手町プレイスについて「落札金額(4364億円)に対する期待利回りは低い」との声が聞かれるが、前田隆也社長は「立地が良い大型ビルでは入居企業も長期間オフィスを構える」と安定収入になることを強調する。
(原欣宏)
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