2022年1月、米マイクロソフトはゲーム大手の米アクティビジョン・ブリザードの買収を発表した。当局の差し止め訴訟で成立するかは不透明だが、予定額は当時のレートで実に8兆円。ただ、アクティビジョン社員らの行動がなければもっと高くついただろう。
高給得ていても
21年夏、カリフォルニア州が同社をセクハラや差別で提訴した。「しかし経営陣は何もなかったと取り繕おうとしたのです」。憤った従業員のジェシカ・ゴンザレズさんは300人規模のストライキを起こした。
ゴンザレズさんは経営陣から執拗な嫌がらせを受けたといい、退職を選んだ。同社の身売り発表はその1カ月半後。利用者や株主の信頼も失い時価総額は1年間で4割減っていた。現地報道によれば80人以上が懲戒・解雇処分になり、全従業員の2割近くがトップ退任を求め署名した。ゴンザレズさんは「私の仕事を犠牲にしても声を上げたのは正しかった」と言い切る。
米国では157年前に労働組合の全国組織が生まれた。今の動きが伝統的な労働運動と違うのは、リーダー格の社員たちが既に高給を得ていることが多く、待遇改善が目的ではない点だ。20年、警官による黒人暴行死事件で広がった抗議運動などが、人々が社会問題に向き合う契機になった。
支援する組織も
運動を支援する組織も登場している。その一つが約150万人が登録する英オーガナイズだ。21年、英国のアマゾン倉庫で働く従業員が、返品されたテレビなどが週10万点も廃棄されていることを知った。従業員はオーガナイズの会員を通じて各地で同様の実態があると突き止め、アマゾンから改善表明を引き出した。
対象となった会社の多くは高い経営理念を掲げている。例えばアクティビジョンには「正しいことをせよ」と皮肉な一節がある。「『経営者は自身がとなえる原則により忠実にあるべきだ』と従業員は警鐘を鳴らしているのです」(米マサチューセッツ工科大学のトーマス・コーカン教授)
経営者はその視線に応え、社会問題への主張を明確にし始めている。21年、米ジョージア州で、黒人の投票の阻害につながる法律が成立した。アップルやシスコシステムズなどのトップが相次ぎ反対を表明。同州に本社を置きながら態度を明確にせず批判されていたデルタ航空のエド・バスティアン最高経営責任者(CEO)も、従業員らとの話し合いを経て「受け入れがたいものだ」と非難した。
PR会社の米ウェーバー・シャンドウィックは22年、ロシアのウクライナ侵攻を食い止めるのに「指導的または重要な役割」を担う主体は何かアンケートした。北米・欧州の5カ国では44~65%が「企業や産業」を挙げドイツでは「政府」を上回った。政治問題に慎重な日本でも36%に達した。
何が正義かは人によって様々で、旗幟(きし)鮮明にすることは時に摩擦も生む。ただ、社員が会社の「生きざま」を見る目は確実に厳しくなっている。
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