· 

大和ハウス、住宅営業は二刀流 データ駆使で対面補う 大和ハウス 10兆円への道(2)

年間5000棟もの注文住宅の販売データを使い、過去の図面や見積書から住宅の3D(3次元)モデル表示や販売価格の目安を提示できるツールを開発、導入した。設置負担が大きかった住宅展示場から転換して効率的な営業を追求する一方で対面重視の姿勢は変えない。独自の「住宅トランスフォーメーション」で、利益率が低迷する戸建住宅事業をテコ入れする。

 

「その立地とレイアウトでしたら、こちらの住宅はいかがでしょうか」。大和ハウスの営業担当者は注文住宅を検討している新婚夫婦の要望を聞くと、おもむろにタブレット端末を取り出した。画面に映っているのは大和ハウスの主力商品「ジーヴォシグマ」の外観を模した3Dモデルだ。次に内観を映した動画を流し、同じ商品で住宅を建てたオーナーのインタビュー動画や、高い耐震構造について説明した動画が流れる。

資料作成が20分に

「お客さんには早く感動してもらえる。しかも効率的に営業できる」。住宅事業本部でデジタル化を主導する山口知洋グループ長はこう話す。大和ハウスが開発し、22年から本格運用を始めた営業ツール「ファストプラン」だ。

これまでの住宅営業は紙のカタログを持ち歩くか、営業担当が自分なりのプレゼン資料を作成して顧客に見せていた。「資料作成に2〜3時間の準備がかかっていたが、20〜30分で終わる」(山口グループ長)

ファストプランはこれまで蓄積してきたビッグデータがあってこそのツールだ。大和ハウスは年間5000棟近くの注文住宅を販売している。間取りが統一されている建売住宅と違って、注文住宅は土地オーナーの要望を細かく聞き入れて設計する。顧客から持ち込まれる面積や希望する間取りは千差万別だ。

これまでは「設計責任者のコンピューターの中にはあったが、ビッグデータとして一元管理できていなかった」(大友浩嗣・取締役常務執行役員)。データを集約すると人気の間取りや成約後の評価が高いプランが数値化されて見えてきた。例えば120平方メートルの住宅で、子供が2人いる家庭であれば収納スペースを多めにとり、バルコニーには屋根を設けるケースが多い。

売れ筋プランの3Dモデルや動画を用意し、ファストプランとして追加していく。資料を見せるだけではなく、顧客の要望に応じて壁や床の色を瞬時に変更できるのもデジタルツールならではの特徴だ。現状は数十プランにとどまるが、早期に100プランまで増やしたい考えだ。

ビッグデータを活用した営業ツールはファストプランにとどまらない。新たに住宅の面積などを入力すると、瞬時に販売価格の目安が算出される「シンプルコスト」も開発した。仕組みは単純だ。過去の図面や見積書のデータを基に、希望する面積であればどれほどの価格帯で販売してきたかをグラフで表示する。

住宅展示場を削減

従来は初回面談で顧客の要望を聞いても、その場で「鉛筆をなめて」(大和ハウス社員)算出するか、会社に持ち帰って設計者などと見積もりを作成する必要があった。その場ですぐに金額の目安を伝えることで、顧客は住宅購入を検討しやすくなり、「契約までのリードタイムを大幅に短縮できる」(大友常務)。

大和ハウスが住宅営業のデジタル化を急ぐ背景には利益率の低さがある。2022年3月期の戸建住宅事業の営業利益率は5%弱。賃貸住宅(約9%)や物流センターなどを開発する事業施設(12%弱)と比べて見劣りする。

維持管理コストがかかる住宅展示場の削減にも乗り出した。22年3月末時点では全国197カ所の展示場を展開していたが、今後5年間で3割ほど減らして投資をデジタル対応にあてる。展示場をきっかけに契約に至る割合も従来は5割程度だったが、新型コロナウイルスの影響で来場者数が落ち込んでいるためだ。

一方、芳井敬一社長は「フェース・トゥー・フェース(対面)はなくならない」と強調する。22年には新入社員に半年間、住宅営業を経験させる研修制度を始めた。「清潔感がなければ選ばれないし、会話して黙っていてもだめ。(ビジネスパーソンとして)教えられることが圧倒的に多い」(芳井社長)ためだ。

新入社員には、創業者である故・石橋信夫氏が経営理念を書き記した冊子「わが社の行き方(いきかた)」が配布される。そこには「営業は断られた時に始まる」と記す。芳井社長は22年4月の入社式で冊子を掲げ、600人弱の新入社員を前に「仕事の調子が良いときに読みなさい。頭を叩いてくれるから」と話した。大和ハウスのルーツである営業力は維持しつつ、効率化に舵(かじ)を切る構えだ。

BIMでビジネス変革

大和ハウスが建築におけるデジタル技術の導入で業界をリードし始めた。きっかけは三洋電機(現パナソニックホールディングス)元社長で社外取締役の桑野幸徳氏による鶴の一声だった。3Dモデルに様々なデータを紐づける「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の導入を社長主導で推進してきた。

桑野社外取締役は「DXは社長が指揮するべき」と話す

「BIMはビジネスモデルの変革だ」。17年初めに開いた大和ハウスの代表取締役と社外役員との意見交換会。樋口武男会長と大野直竹社長を前に、桑野監査役(肩書はいずれも当時)が語り始めた。当時は技術本部という部署でBIMの検討は進めていたものの、社内でBIMは単なる設計の合理化の手段とみなされていた。そこで桑野氏は「これは一技術ではない。競争力の強化と顧客満足の向上につながる。全社で社長が率先してやるべきなのではないか」と提案した。

BIMがなぜビジネスモデルの変革につながるのか。従来から建築の設計におけるデジタル化は進んでいた。1980年代に登場した建築用のCAD(コンピュータによる設計)ソフトによって、鉛筆で製図する必要はなくなった。その後、2010年代に普及し始めたのがBIMツールだった。3Dで設計するところまではCADと同じだが、そこに原材料の種類やその価格、大きさなどの情報を組み込むことが可能になった。

設計段階でデータベース化することで、建物の価格の算出や設計の変更が容易になった。さらに3Dモデルを作成するため、設計段階で施主に対して3Dモデルを見てもらうことで商談も進めやすくなる。大和ハウスは拡張現実(AR)機能を用いて、BIMで作った3Dモデルを建設予定の土地に浮かび上がらせるという営業活動も開始した。

5年で200人規模体制に

BIM活用の提案が社外からもたらされたことにも理由がある。2000年から05年にかけて三洋電機の社長を務めていた桑野社外取締役は「三洋電機で3次元CADを導入した経験から、3次元の効果を理解していた」と話す。退任後、大和ハウスの樋口会長に請われて監査役に就き、建築でもCADやBIMに注目するようになった。

BIMの設計をもとに、実際に建築した「昭和の森公園仮設団地」

社外役員からの提案内容も受け、大和ハウスの取締役会でBIM戦略を全社的に推進していくことが決議された。折しも樋口会長は「創業100周年にあたる2055年に売上高10兆円」という壮大な目標を声高に掲げていた。桑野氏をはじめとする社外役員の提案資料には、BIMによるビジネスモデルの転換で売上が伸びることとともに「10兆円」の文字が躍っていた。桑野氏は「これが樋口会長の琴線に触れたんだと思う」と振り返る。

17年4月、大和ハウスにBIM推進室が発足した。配属されたのは5人。同年10月にBIM推進室に加わり、現在もBIMを主導している宮内尊彰次長は「これからの大和ハウスの成長戦略の基盤として、BIMが重要な立ち位置にあるというメッセージがあった」と当時の雰囲気を語る。少人数の組織は拡大を繰り返し、22年4月には建設DX推進部が発足した。人数は17年当時から実に40倍となる約200名まで拡大した。

危機感が開発の背中押す

まず集合住宅の部門や、ビルや事務所などを建築する部門でBIMの活用が始まったものの、次第に戸建住宅の部門にも波及していった。その過程で21年6月に新設されたのが「住宅ビッグデータ活用ワーキンググループ」だった。戸建住宅の契約データが膨大にあるのに、生かし切れていない。その危機感を後押しに月1度ミーティングを開催し、ファストプランやシンプルコストなどの営業ツールを次々に開発してきた。

ツール開発にはスタートアップが多用する「MVP(顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)」の考え方が採用された。ツール開発を担った住宅事業本部の山口知洋グループ長は「最初は完成度50%でもいいと言われた」と振り返る。わずか2カ月間で、未完成ながらファストプランの原型を作り上げた。

大和ハウスがBIMで設計したモデルは、好きな場所に浮かび上がらせることができる

「住宅産業というのは実はものすごいビッグデータだ」。桑野社外取締役はこう話す。自動車や家電は部品点数が多いものの、規格品を大量生産するのが一般的だ。一方で大和ハウスが手掛ける注文住宅は間取りが千差万別で、壁や床の色や素材も様々だ。これらのデータを整理して一定の傾向を導き出せれば、営業活動や新商品の開発にも生かせる。桑野社外取締役は「住宅業界こそ、ビッグデータを活用しなければならない産業だ」と指摘する。

「ITと根性で力は4倍」

「世界的にも大和ハウスのBIMの取り組みは進んでいる」。建設DX推進部の宮内次長は胸を張る。大和ハウスは設計と施工を自社で担う物件が多いだけではなく、自社工場で部材を製造しているため、工場ともスムーズにデータ連携できる。設計事務所やゼネコン、部材のサプライヤーと会社を超えて業務を分担していると「大きな壁が生じてしまう」(宮内次長)。1955年の創業時から建築の工業化をすすめ、業務を多角化してきたことがBIMの導入に貢献している。

大和ハウスはBIMツールの大手である米オートデスクと、戦略的連携に関する覚書を3度締結した。海外の建築業者が大和ハウスのBIM活用を学ぶため訪日することもあるという。

大和ハウスはかつて仕事の厳しさが有名で「モーレツ企業」と呼ばれた。桑野社外取締役は「IT(情報技術)ツールだけだと2倍にしかならない。加えて根性があれば力は3倍にも4倍にもなる」と指摘する。

とはいえ大和ハウスの取り組みもまだ道半ばだ。芳井社長は「BIMのゴールを追いかけていても、どんどん後ろに行ってしまう」と話す。2055年に10兆円を達成するという夢に向け、BIMやビッグデータを使い倒す構えだ。

(仲井成志)