入居時の重要書類や解約手続きの説明書など紙のやりとりをデジタル画面上で完結できる。今後はオンライン診療など入居者向けサービスのラインアップを充実させ、管理物件の入居率や継続率向上につなげる。
入居手続きから日常生活の事務連絡までスマートフォンでやりとりできるデジタルアプリ「AMBITION Me(アンビションミー)」を開発した。同社が首都圏を中心に管理する2万4000戸以上の賃貸住宅入居者が対象。2022年9月から運用を開始し、1000人以上がサービスを利用している。
これまで改修工事やゴミ出しのルール変更など入居者にお知らせを伝える際は、従業員が物件まで足を運んで掲示板に紙を貼っていた。解約する場合も連絡を受けてから記入が必要な書類を郵送するため、入居者としても手間のかかる作業が多かった。これらのやりとりをデジタル化することで、業務負担の軽減と顧客満足度の向上を狙う。
企画開発を担当したDX推進室の中村勇介室長は「アプリ利用の最大の壁である導入プロセスを簡素化した」と語る。入居者はLINEで専用アカウントを友達登録すると、同社が持つ入居者データと紐付けされてアプリを使えるようになる。
入居後の管理会社への問い合わせもLINEのチャットから送ることが可能だ。緊急のトラブルなどはコールセンターへの連絡が必要になるが、簡単な質問や相談などはメッセージを送れば同社の従業員が対応する。今後は入居者にアプリの使い心地を聞き取りし、ニーズに応じてサービスや機能を拡充していく。
まずは23年春をめどにアプリ上でオンライン診療を予約できる仕組みを追加する。医師の診察や健康相談はLINEのビデオ通話機能を活用する。少子高齢化で長期的に高齢者の単身世帯は増加が予想される。中村氏は「日ごろから健康状態を手軽に確認できる機能があれば入居者の心理的安全性を高められる」と狙いを話す。

中長期的には電気やガス、水道などの各種手続きをはじめ、オンラインショッピングや行政での住所変更などのサービス提供を想定する。清水剛社長は「入居者の日常生活に欠かせないツールにしていく。結果的に家賃以外の収益機会を生み出せれば賃貸管理事業の利益拡大にもつながる」と自信を見せる。
住宅業界では大手デベロッパーを中心に、分譲や賃貸ともに物件探しから契約までをデジタル中心に切り替える動きが出てきている。ただ、入居後のアフターフォローは「依然として紙や対面主体というのが現状だ」(清水社長)。
22年5月には宅建業法が改正され、不動産の売買や賃貸の電子契約化が可能となった。賃貸住宅市場では三井住友海上火災保険が火災保険加入の手続きをネットでできるシステムを開発し、不動産仲介業者向けに販売を始めた。分譲住宅に比べて転居の頻度が多い賃貸住宅は今後もデジタルシフトが加速していくとみられる。
(山口和輝)
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