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[FT]AI文章作成、MBA学生に匹敵 米国名門校が試験

同氏が出資した企業が開発した技術が今、MBAの価値を脅かそうとしている。人工知能(AI)を使って自然な文章を生成する「ChatGPT(チャットGPT)」の功罪に注目が集まっている。

 

チャットGPTは与えられた情報を元に文章を生成する。この技術が広がるにつれ、懸念する声が上がっている。そこで、名門ビジネススクール、米ペンシルベニア大学ウォートン校のクリスチャン・ターウィッシュ教授は、その実力を試すことにした。教授がテストした結果、同氏が教えるMBAの主要科目「運用管理」でAIが一部の学生をしのぐ可能性を示した。教授自身も驚く結果だった。

ターウィッシュ氏は先週発表したリポート「チャットGPT3はウォートン校でMBAを取得できるか?」で「チャットGPT3は試験で『B』『Bマイナス』の評価を得る可能性がある。経営大学院の教育への影響は大きい」と結論付けた。同時に、試験方法やカリキュラムのあり方、授業内容を刷新する必要性を指摘した。

チャットGPT3はここ数週間で処理要求が急増し、一時的に使えなくなっている。MBAを含む学部の多くの教授は、学生がこのAI技術を論文や試験で悪用する可能性を懸念している。

教育機関全体に突きつけられた問題

「私は懸念派の一人だ」。米ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのジェリー・デービス教授は16日、GPT3の影響について議論するために教授会を招集した。「これは教育機関全体に突きつけられた問題だ。これから一段と大きな問題になる。今、徹底的に検討すべきだ」

英ロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ビジネス・スクールのフランシスコ・ベローソ学長は「わが校ではこの問題を真剣に議論しており、作業部会がチャットGPTなどのツールの影響を分析している。当校の創意工夫に富む学生がこうしたツールを使っていることは把握している。近々ルールを決める」と語った。

ベローソ氏はAI技術の利用が増えることは自然の流れで、望ましいと強調する一方で、学生がチャットGPTを利用したかどうかを明示するルールが必要だと主張した。「手書きやクラスでの口頭の(少なくとも同時進行の)議論に立ち戻る」などの対策が考えられるという。

米マイクロソフトは、チャットGPTを開発した米オープンAIに2019年に10億ドルを投資、現在100億ドルの追加投資を検討している。マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏は米ハーバード大学を(学士号を取得せず)中退している。

このテクノロジーは教育にとどまらず、インターネット検索や各種業務など広範な分野を根底から揺るがすとみられている。

米テスラの創業者で、オープンAIの設立時の出資者の1人であるマスク氏自身は、MBA出身者は批判的思考力に欠け、取締役会や業績ばかりにを気にして、実際の製品を吟味したり、製造現場に足を運んだりすることをおろそかにしていると主張している。

ターウィッシュ氏は皮肉にも「チャットGPTは運用管理やプロセス分析で解答を作成する文章力や分析力は優れているが、計算力には限りがある」と結論づけた。ただし、マーケティング、ファイナンス、会計などMBAの全てのカリキュラムを試してはいない。

文章は上手でも計算は苦手

同氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に対し「簡潔さや言葉の選び方、文章構造などワーディング(言い回し)には圧倒されるばかりだった。間違いなく優秀だ」と絶賛した。「だが、数学はひどい。用語や洞察は正しいが、比較的簡単な中学校レベルの計算でさえ間違えた」と指摘した。

とはいえ、ヒントを与えると解答がすぐに改善したと強調した。将来的には試験の問題作りや採点などでかなりの能力を発揮する可能性があり、教員は学生を支援する大切な仕事に時間を割けるようになるとの見通しを示した。

さらに、チャットGPTはリポートやアドバイスを大量に書くコンサルタントを目指すビジネススクールの多くの卒業生にとって脅威になる可能性があると示唆した。

同氏はリポートで「学生は判断力を磨くことで、『スマートなコンサルタント(常にスラスラと答えるが、間違いも多い)』のようなチャットGPTに対抗できる」という。

AIを学習や評価に活用し、AIが作成した解答を特定するツールを開発したETSプロダクトイノベーション研究所のカラ・マクウィリアムズ所長は「教育に先端技術を取り入れることは必要だ。電卓が出始めたころには、それを利用することを懸念する人もいた。私は、AIが人間に取って代わるのではなく、AIを活用する人が人間に取って代わると考える」と語った。

教員を雑用から解放

同氏は、チャットGPTが講義計画の立案、シラバス作成、講義のメモ作りなどで教員を支援できるとみている。「多くの雑用から解放され、学びに専念できる。個人に対応した教育を充実させる機会が生まれる」

米コーネル大学SCジョンソン・カレッジ・オブ・ビジネスの学長を務めるアンドリュー・カーロイ氏は、多くの研究者がチャットGPTの能力に衝撃を受けたという。同氏は、これに関して、行動規範や研究倫理規定を見直す必要があると指摘した。さらに「個人的には、学生がAIを貴重な学習支援ツールととらえられるように、教授らが授業のテーマとして積極的に取り上げることを期待している」と語った。

同氏はさらに「チャットGPTがなくなることはない。こうしたAI技術はますます進化するだろう。学部や大学の管理側もこのテクノロジーについて学ぶために投資する必要がある」と指摘した。

チャットGPTはFTの取材に対し「MBAを殺す『可能性は低い』」と語った。

「AIや機械学習は特定のタスクを自動化し、効率化することは得意だ。だが、まだMBAで習得する複雑な意思決定や批判的思考をまねることはできない」と説明した。「さらに、MBAが提供する人脈づくりの機会や業界のプロフェッショナルとの接点は、テクノロジーではかなわない」

By Andrew Jack

(2023年1月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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