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大学の多様性 米司法が揺らす「学ぶ権利」

東京工業大学は2024年度入学生から女子枠を設定する方針を発表しました。24年度と25年度の2年かけて計143人の女子枠を設けるというものです。これまでは女子学生の比率が極めて低いため、多様性を高めるための取り組みです。

大学にとって多様性がいかに大切かということなのですが、米国では、そもそも多様性とは何かが裁判で問題になっています。

米国の大学では入学者選抜において「アファーマティブ・アクション」を採用している大学が多くあります。これは「積極的差別是正措置」と訳されます。入学試験において黒人や少数民族を優遇する方針のことです。

米国では奴隷制度が表向きにはなくなったとはいえ、現実には貧困や差別から十分な教育を受けられない若者が大勢います。これらの学生を救済するため、この制度ができました。

しかし、入学者の数は限られますから、黒人や少数民族の生徒が優遇されると、結果として白人やアジア系の生徒が、成績優秀でも入学できないという事態が起こり得ます。これは「差別だ」と大学を訴える動きが出ているのです。

このうちハーバード大学とノースカロライナ大学の入学者選抜方式について、22年10月末から、米連邦最高裁判所で審理が始まりました。

裁判は、両大学の選抜責任者に対し、判事たちが質問をする形で進みました。このとき判事がどんな質問をするかで、今年には出る判決の内容が推測できてしまいます。

連邦最高裁の判事は9人。このうちトランプ前大統領など共和党の大統領が任命した保守派は6人、民主党の大統領が任命したリベラル派は3人です。

22年11月1日付「ニューヨーク・タイムズ」によると、ある保守派の判事は、「多様性という言葉は何度か聞いたことがあるが、どういう意味なのかさっぱりわからない」と発言しています。

また別の保守派判事も「大学入試である集団に有利な条件を与えると、他の集団が不利になるのではないか」と問い質(ただ)しています。アファーマティブ・アクションに懐疑的です。

一方、リベラル派の判事は、「アファーマティブ・アクションを廃止すると、マイノリティーの入学者数が激減してしまう可能性がある。(ハーバードのような)エリート大学は、差別をなくすために率先して行動すべきだ」と発言しています。

保守派とリベラル派の考え方は正反対です。連邦最高裁は保守派の判事の方が多いですから、2つの大学のアファーマティブ・アクションは差別であり、撤廃すべきだという判決が出そうな雲行きです。

大学入試に関しては、テキサス大学オースティン校の入学方法についても裁判になり、16年、当時の連邦最高裁は「多様な学生を確保するための要素として人種を考慮することができる」という判決を下しています。

その後、連邦最高裁の判事は保守派が多数になったことで、これまでの判例が覆される可能性が出てきたのです。

判事の構成が変わると、判決も変わる。昨年の6月には、人工妊娠中絶は憲法が認めた人権ではないという判決が出て、大きな反響を呼び、中間選挙の結果にも影響しました。

今回はどうなるのか。判決次第では、再び大きな議論を呼ぶことになるかもしれません。