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東急不の岡田社長「再開発で子育て世代に優しい渋谷」

おかだ・まさし 1982年大阪大工卒、東急不動産入社。2014年取締役常務執行役員、17年取締役専務執行役員、19年副社長。20年から現職。岡山県出身。64歳

新型コロナウイルス禍で出社と在宅勤務を組み合わせるハイブリッドワークが広がる中、東急不動産がオフィス市場で存在感を示している。旧九段会館を建て替え、2022年10月に開業した九段会館テラス(東京・千代田)はテナントが埋まり、渋谷駅南西部の桜丘口地区でも大規模再開発が進む。岡田正志社長に足元の事業環境を聞いた。

――22年度は9月末時点でオフィス・商業施設の稼働率が97.3%と、競合他社と比べて高水準で推移しています。

「オフィスはコロナ禍で改めて重要性が高まっている。単なる働く場だけでなく、社員同士の関係構築や新しいアイデアを創造する場として役割が変化しつつある。九段会館テラスは心身の『健康』をテーマに(テナント企業の社員などが使う)職域食堂や医療施設を設けた。22年中にテナントが全て埋まるなど反応は想像以上だ」

「23年は都内でも大型オフィスの完成が相次ぐ。ただ、直近3年単位でみると決して供給量は多くない。(日銀の長期金利の上限引き上げに伴う)金利上昇は懸念事項だが、需要の落ち込みは心配していない。一時的に空室率が高まっても中長期的には回復傾向が続くだろう。賃料の下落も来年末あたりで底打ちするとみる」

九段会館テラスは職域食堂や医療施設を充実させた(東京都千代田区)

――一方で既存ビルの入居企業が抜ける「2次空室」が増える可能性もあります。

「今後はますますオフィスの立地や建物のデザインが入居企業のイメージを決めたり、人材採用の成否を左右したりするようになる。当社も企業同士の交流や社内のコミュニケーションが活発化するような空間作りを意識している。顧客に選ばれる魅力のある物件と、そうでない物件の差が開いていく」

「20年10月に始めた短期貸しオフィス『QUICK』は街の中心部で引き合いが強い。内装や家具付きのオフィスはコスト面の割安感に加え、決断の速いベンチャー企業のニーズに合っている。シェアオフィスの『ビジネスエアポート』など、オフィスのサイズや契約形態のバリエーションを増やしている」

――23年も渋谷駅桜丘口地区で起業支援施設やサービスアパートメント、国際医療施設などから成る大型複合ビルが完成する予定です。

「オフィスビル仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が発表した22年12月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均空室率は6.47%なのに対し、渋谷区は唯一3%台(3.65%)と低い。多様な文化や人が混ざり合い、非常に若い街というイメージだ。中目黒や三軒茶屋など『住みたい街』が近くにあり、就職活動中の学生に人気の企業も多い。東急グループで進めている大規模再開発でオフィスの供給が増えれば、IT(情報技術)やゲーム産業の集積がさらに進むだろう」

「桜丘口の再開発では住宅機能も充実させる。これまで渋谷駅周辺は『遊ぶ』『働く』が目的のゾーンが多かった。地形的にも谷底にあたるため高低差が大きく、高齢者や子育て世代にとっては移動しにくい街でもあった。歩行者デッキの設置などで動線を整備し、ひとつの街としてつながりを持たせる」

23年にはサービスアパートメントや国際医療施設などを設ける渋谷駅桜丘口プロジェクトが完成する(イメージ)

――オフィスや住宅にどう東急不動産らしさを出していきますか。

「第一に環境先進が挙げられる。22年に保有する全施設で使用する電力を再生可能エネルギー由来に切り替えた。脱炭素の機運が高まる中、外資大手をはじめ環境に対する企業の意識は高まっている。分譲マンションブランド『ブランズ』でも環境対応を訴求し、他社と差異化を図っていきたい」

「22年12月末時点で開発中も含めると全国86カ所で太陽光や風力などの再生エネ発電所を展開している。固定価格買い取り制度(FIT)を活用した売電収入も順調に伸びている。再生エネ事業の粗利益は60億円程度だが、目標である100億円の実現も見えてきた。洋上風力や地熱発電など発電方法の多角化も進めていく」

再生エネ事業の成長にも注目

住宅にオフィス、物流施設と全体的に順調に事業を拡大する東急不動産。渋谷で進める桜丘口地区の再開発プロジェクトではサービスアパートメントなど住環境も整備する。駅周辺の回遊性が高まれば、飲食店や商業施設の滞在時間が増え、ビジネスの選択肢も広がる。街の魅力を高められるか、「渋谷の大家」としての手腕が問われる。
一方、懸念となるのがホテルや商業施設などの観光事業だ。昨秋以降は政府の観光促進策「全国旅行支援」や、入国規制の緩和で客足は回復傾向にあるが、岡田正志社長は「新型コロナウイルス禍前の水準には戻っていない」と話す。1月に政府が中国からの渡航者に対する水際対策強化に動くなど、気は抜けない。
新たな主力事業に育ちつつあるのは再生可能エネルギー事業だ。2022年12月に新電力のシン・エナジー(神戸市)に出資。適地が減少する太陽光発電や設置コストの大きい風力発電に加え、地熱や小水力などへの参入を進める。景気動向に左右されやすい不動産事業に対し、安定した収益が見込める発電事業をどれだけ伸ばせるか注目だ。
(山口和輝)