テレビゲームを模した画面内の教室に職員と子どものアバター(分身)が入り、この日のテーマであるサンゴの生態について通話やチャット機能を使ってのやり取りが続いた。不登校の小中学生が集まるインターネット上の仮想空間「room-K」での学習風景だ。

カタリバは仮想空間を介して不登校の子どもを支援する=同法人提供
認定NPO法人「カタリバ」が2021年に始めた。埼玉県戸田市などと組み、134人が利用する。「秀頼」の名で自宅から参加する小4男児(10)は小学校に入学後すぐ不登校になった。「みんなと同じでないといけない学校が合わなかった」。自分のペースで好きな理科などを学ぶ。
「一律に同じ内容を同じスピードで学ぶことに合わない子どもはたくさんいる。学校はそこに目をつぶってきた」。カタリバの今村久美代表は指摘する。
文部科学省によると、年30日以上登校しない小中学生は21年度に過去最多の24万人に達し、約10年前からほぼ倍増した。
不登校の加速度的な増加は、教室に集まって教員が一斉に教える学校文化に対する子どもたちの異議申し立ての広がりを映し出す。
明治維新から戦後の高度経済成長期に至るまで工業化が社会の課題だった時代はマニュアルに従って正確に作業する均質な人材が必要とされ、学校での画一的な教育が効率的だった。
デジタル社会を迎えた今、求められているのはイノベーションを起こせる人材だが、学校の対応は鈍い。
受け皿整備貧弱
「周囲に合わせろと叱られた」「授業で分からないふりをするのが苦痛」。文科省が21年に実施したアンケートに悲痛な訴えが並んだ。対象者は3歳で九九を理解するなど特異な才能を持ち「ギフテッド」と呼ばれる小中高生やその親など約800人だ。
学校は学力などを伸ばす以外に協調性を身につける役割を担う。一方で不登校児の学びの充実を図る教育機会確保法が16年12月に成立し、新型コロナウイルスの感染拡大もあって「必ずしも学校に行かなくてもよい」という意識が広がった。
文科省も登校を基本に据えつつ、従来の画一的な教育から、一人ひとりに合わせた「個別最適な学び」へと転換する目標を掲げる。だが、学校になじめない子の受け皿は貧弱なままだ。
日本は家庭で学ぶホームスクーリングへの支援体制が欧米ほど整っておらず、不登校児の4割弱は学校ともフリースクールなどの民間機関ともつながっていない。利用に年100万円ほどかかるフリースクールもあり、学びの保障は経済力に左右される。
不登校児をオンラインで学習支援する熊本市の遠藤洋路教育長は「現状は学校に無理して来なくてよいといいながら、学びの継続は自己責任になっている」とみる。そのうえで「登校するかしないかではなく、いろいろな場所で学べるようにすることが重要だ」といい、学校以外の受け皿を教育行政が率先して整える必要性を訴える。
不登校の段階で周囲が適切に対応できず、成人後に長く自宅に引きこもる例もある。「個別最適な学び」を保障しながら社会性をどう育むか。具体策の充実が求められている。
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