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日銀人事、自民で思惑交錯 安倍派、アベノミクス修正警戒 政府が来月提示へ

政府は日銀の黒田東彦総裁の後任人事案を2月に国会へ提示する調整に入った。日銀人事は安倍晋三元首相が進めた経済政策「アベノミクス」の継承と連動する。自民党最大派閥の安倍派は人選がその試金石とみて注視する。

黒田氏は4月8日、雨宮正佳、若田部昌澄の両副総裁は3月19日に任期満了を迎える。正副総裁の任期は5年だ。

一連の人事には国会の同意が要る。政府は黒田氏の後任を含め3人の候補案を衆参両院の議院運営委員会の理事会に示す方針だ。与野党は候補から金融政策への考え方を聴取した後、最終的には衆参の本会議で人事案の同意の可否を決める。

いまの与党は衆参両院で半数を超える議席を持っており、野党に人事案を覆される恐れはほぼない。波乱要因はむしろ与党内にある。

特に神経をとがらせているのは安倍派だ。

参院安倍派の世耕弘成参院幹事長は昨年12月の日本経済新聞とのインタビューで「アベノミクスの第1の矢である大胆な金融緩和をぶれずに続けた」と黒田氏を評価した。大規模緩和を続けるべきだとも主張した。

参院は248ある定数のうち与党が145を持ち、過半数(125議席)を上回る。

参院安倍派は40人ほど。数だけでみれば同派が人事案を拒んだ場合は可決できない計算もできる。政権内からは「安倍派の意見に一定程度は配慮する必要が出てくる」との声も漏れる。

安倍氏を失った安倍派にとってアベノミクスの継続は派閥の結束を維持するための支柱の一つといえる。利上げを含めた政策変更で景気が腰折れすれば、政府・与党への批判が増幅する可能性が高くなるとみる。

安倍派幹部は「人事次第で党内は乱れる。金融緩和に積極的な『リフレ派』を排除する人事なら、こちらも動かざるを得ない」と話す。

岸田文雄首相は19日収録のBSテレ東「NIKKEI 日曜サロン」で「4月時点の経済状況を考えたうえでどなたがふさわしいのか、これから判断しなければならない」と発言した。

安倍派以外では茂木敏充幹事長が新総裁の資質として「丁寧な政策説明と市場との対話、各国との適切な連携を期待したい」と述べている。岸田派の一人は「時間をかけてアベノミクスは修正されるだろう」との見立てを示す。

日銀はすでに大規模金融緩和を修正し、長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%に広げた。異次元緩和を続けていくのには限界がある。次の正副総裁がだれでも、政策金利引き上げと正常化を見据えて対応するとの見方が根強い。

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「アベノミクスの修正と受け取られる人事の決め方をして景気が冷え込めば『岸田ショック』を招いたと言われかねない」と指摘した。

 

 ▼アベノミクス 2012年12月に発足した第2次安倍政権が打ち出した経済政策で、安倍晋三元首相の名前と英語のエコノミクスを組み合わせた造語だ。(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略――の「3本の矢」で成り立つ。
 当時の円高の流れを止めながらデフレからの脱却をめざした。安倍氏の就任時に1ドル=80円台半ばだった円相場で円安に進んだ。リーマン・ショックや東日本大震災で落ち込んでいた企業の業績も改善した。
 異次元金融緩和で日銀が支えた。安倍氏は13年9月に米ニューヨーク証券取引所で「バイ・マイ・アベノミクス(私の経済政策は『買い』だ)」と演説した。国債の大量購入で長期金利は安定したものの、財政規律が緩んだとの指摘も多い。