警察庁が19日、新しい規制を盛り込んだ改正道路交通法の施行時期を示した。バスや電車と比べ小回りがきくのが特長で、欧米では目的地への「ラストワンマイル」の移動手段として利用が急拡大している。日本にも定着するか、3つのポイントから解説する。
・いつから日本に?
・安全な「ちょい乗り」のためには?
(1)免許なしOKの車両は?
電動キックボードは一般的に、板状の車体についた車輪をモーターで駆動し立ったまま乗る。改正法では電動キックボード向けに「特定小型原動機付き自転車」という新たな区分を設けた。性能上の最高時速が20キロ以下の車両がこれに当てはまる。

免許は不要で16歳から運転でき、ヘルメットの着用は努力義務だ。ナンバープレートの設置や自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の加入は義務付けられている。
車道や自転車専用レーンの走行を想定しているが、最高時速を6キロまでに制限できる車両は例外的に自転車も通行可能な歩道の走行も認められる。その場合、6キロ以下に制限していることが分かるよう最高速度表示灯を緑色に点滅させて走る必要がある。
このほかにも、道路運送車両法に基づく保安基準で2系統のブレーキ装置やウインカーの設置など、車両に必要な設備が定められている。

交通反則切符(青切符)や刑事処分の対象となる。16歳未満が運転した場合、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科される。一定の違反を繰り返した運転者は、自転車と同様の運転者講習を受けなければならない。講習の対象となる違反は歩道走行を含む「通行区分違反」、「酒気帯び運転等」など17類型ある。
最高時速20キロを超える車両は原付きバイクと同じ「原動機付き自転車」などに分類され、走行には運転免許が必要でヘルメットの着用が義務付けられる。
(2)いつから日本に?
電動キックボードは2018年ごろから欧米などで利用が広がってきた。米国では18年末時点で8万5000台を超えるシェアリング車両が利用可能になっているという。
日本でも20年に都内4区などで公道での実証実験が始まり、対象エリアは全国各地に拡大している。市街地にある拠点から車両を有料で借りて移動する「シェアリングサービス」が中心だ。国内の流通台数は販売を含め1万8000~2万台と推計されている。
国内では現在、市販車両の多くは原動機付き自転車、特例のシェアリングの車両はヘルメット着用が任意の「小型特殊自動車」と道交法上の分類が違う。いずれも運転免許が必要だがヘルメット規制が異なり、利用者には分かりにくい状況が続いていた。
法改正には電動キックボードの新区分を設け、交通ルールを明確化する狙いがある。最高時速20キロ以下ならスピードは自転車に近く、運転に高い技術も必要ないため運転免許を不要とした。海外でもドイツなどは免許なしでの運転を認めている。
電動キックボードは歩くのが面倒な距離の移動時間を短縮できる。利用が広がる背景には、時間効率を重視するタイムパフォーマンス(タイパ)志向の広がりもあるとみられる。立ち乗りのため電動アシスト自転車と比べると服装も選ばず、新たな移動手段として期待は大きい。
(3)安全な「ちょい乗り」のためには?

一般的な電動キックボードは自転車と同様にハンドルで方向転換し、ブレーキもハンドルについている。難しい操作は必要ないが、東京や大阪といった都市部を中心に交通違反が相次いでおり、死亡事故も起きている。
警察庁によると、電動キックボードを巡る摘発は22年6月までの10カ月間に全国で654件に上った。歩道や右側走行といった「通行区分違反」が6割を占め、酒気帯び運転も12件あった。
22年9月には東京都中央区のマンション駐車場で、男性が電動キックボードを運転中に車止めブロックに衝突。転倒した際に頭を強打し、死亡する事故が起きた。飲酒運転とみられている。
改正法が施行されれば日本の運転免許がない外国人観光客を含めて、さらに利用が広がるとみられている。一層の交通安全対策が必要だ。警察による指導や取り締まりだけでなく、事業者側の協力も欠かせない。
改正法は交通ルールの周知を進めるため、電動キックボードの販売やシェアリングサービスに関わる事業者に対して、利用者に交通安全教育を行うよう努力義務を課した。
警察庁は22年2月、電動キックボードの関連企業やネット通販大手、関係省庁が参加する協議会を立ち上げた。事業分野に応じてどのような交通安全教育ができるか検討し、23年3月末までに指針を作成する方針だ。
(菊池喬之介)
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