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日銀が金利抑制へ新手 金利操作の延命か過渡期の策か 金融政策・市場エディター 大塚節雄

条件次第では、お金を借りた金融機関が国債を買った時点で利益が確定する有利な取引が広がる可能性もあり、市場も味方につけて金利安定につなげる策といえる。期間10年の長期金利を0.5%に力ずくで固定する手法に限界が近づいているのは変わらない。制度の「延命」ではなく「撤退戦」を視野に入れた市場安定策として活用するのが現実的だろう。

日銀は今回の決定会合で緩和修正を見送った。市場では昨年12月に長期金利の誘導目標の上限を0.25%から0.5%に引き上げたのに続き、今回も修正に動くとの思惑もあった。現状維持となったことで、債券売り・円買いの巻き戻しが起こり、円安・債券高(金利低下)が進み、株高も誘発した。

金利安定に向けて日銀が強い姿勢を示したことも相場反転を促した。政策方針を記す発表文には新たに「大規模な国債買い入れを継続」という文言を加え、あくまで金利上昇圧力(債券売り圧力)に対抗する「主戦論」を前面に出した。

さらに目を引くのが、「共通担保資金供給オペ」の拡充を全員一致で決めたことだ。

日銀のオペレーション(公開市場操作)といえば、国債を市場から買い取る措置が主流となったが、金融機関から国債や社債などの担保を受け入れ、期限を決めてお金を貸し出すという従来型の資金供給も残っている。これが共通担保資金供給オペだ。

今回、より柔軟に金利を設定できるよう仕組みを改め、これまで実務上、最長でも2年にとどめていた資金供給期間をより長くできるようにした。金融機関により長い期間、低利の資金を貸し出すことで、民間の金融機関を国債購入に向かわせ金利の安定につなげる目的だ。

ゴールドマン・サックス証券は会合後のリポートで「金融機関に対して低金利で資金供給することで、相対的に金利の高い国債とのアービトラージ(裁定)を活発化させ、イールドカーブのゆがみを是正したいとの意図が感じられる」と指摘した。

「裁定」とは、市場のゆがみや金利差を利用して収益を得ようとする取引。たとえば、日銀から低利のお金を5年間借りて、もっと利回りが高い5年物の国債を買えば、リスクなしで利益を確保できる。こうした取引が増えれば、国債の需要が増すので、自然と国債利回りは下がっていく。

この資金供給の仕組みには金利をあらかじめ決めた「固定金利型」と、金利が入札結果によって変動する「金利入札型」がある。現在は固定金利型の金利は「0%」と定められており、タダで借りられる金融機関にとって非常に有利な制度だ。

ただし、「0%」の水準が日銀の実務に制約を課していた。制度上の上限は10年だが、あまりに市場実勢とかけ離れているので、日銀は長い期間の資金供給を避けてきた。

それでも日銀は年初以降、昨年12月の緩和修正後の金利上昇を受け、2年物の固定金利オペを積極活用し、2年近辺の国債利回りの急上昇を防いできた。今後は日銀側が市場の状況をみながら柔軟に金利水準を設定できるようになり、理屈上は低利での5年や10年といった長い期間の資金供給により機動的に動けるようになる。

今回、金融機関からの応札次第で金利が変動する「金利入札型」についても、資金供給期間の上限を従来の1年から10年に延ばすことを決めた。金利が変動する可能性はあるが、より期間の長いお金を安定的に金融市場に流し込むことが可能になる。日銀は早速、会合直後に23日に期間5年の金利入札型のオペを実施すると発表した。

うまくいけば、日銀が直接的に国債をあまり買わず、市場の力を借りて金利低下を実現できる可能性はある。だが、乱用すると、金融機関を「補助金」漬けにして市場機能を圧殺することにもなる。期間10年の長期金利を目標上限の0.5%に固定するために野放図に使うと、市場機能が犠牲になるのは変わらない。そもそも、期間10年近辺は市場に流通する国債が極端に減っており、低利のお金をいくら流し込んでも買う国債がみつからずに空振りする、という状況も考えられる。

これに対し、期間5年程度までなら、一部の海外投資家が春以降の短期金利のマイナス水準の解除やその後の利上げを織り込む行き過ぎた正常化の思惑にクギを刺し、金利を安定させる効果がある程度は見込める。

10年物の長期金利を低位に押さえつける現状の「イールドカーブ・コントロール」に無理が生じている状況は変わらない。資金供給の拡充を無理に制度の「延命」に使うのではなく、制度の段階的な廃止を見据えつつ、経済を支えるために金利の急変動を抑える過渡期の対応策として活用すべきだろう。