タイを代表する乗り物「トゥクトゥク」の配車サービスが外国人観光客に人気だ。運営会社によると、サービス開始から約4年で350万人が利用した。運賃の支払いなどをスマートフォンで済ますことができ、煩雑な料金交渉が不要となったためだ。観光業の回復で街がにぎわいを取り戻しつつあるなか、さらなる利用増が見込まれる。
トゥクトゥクは三輪タクシーの総称。自動車よりも小回りが利き、年中暑くて歩くのも困難なタイでは一般的な移動手段だ。
通常は3~4人乗りだが、最近は最大6人が乗れるタイプがバンコクで目につくようになった。アーバン・モビリティー・テックが展開するトゥクトゥクの配車サービス「MuvMi(ムーブミー)」だ。
現在はバンコクの12エリアで350台を展開。スマホのアプリを通じ、1000カ所以上ある乗降車地点ならどこにでも呼ぶことができる。利用者からは「ベビーカーをたたまずに積み込め、子連れにはちょうどいい」(33歳の日本人女性)と好評だ。
人気の理由は、外国人が利用しやすくなった点にある。トゥクトゥクは通常、運転手との交渉で料金が決まり、タイ語の話せない外国人客はトラブルに遭いやすい。ムーブミーは走行距離などに応じて料金をアプリに表示し、クレジットカードで事前決済できる。
車両は電動車を採用した。排ガスが出ないうえ「きれいな車体が一定の顧客層の不満を解消した」(独コンサルティング会社ローランド・ベルガーの下村健一アジアジャパンデスク統括)ことも、利用を押し上げている。東南アジアの配車最大手グラブも南部プーケットで同様の配車サービスを展開する。
タイ政府観光庁は中国の海外旅行規制の緩和を受け、2023年の外国人旅行者数予測を従来の2000万人から2500万人に上方修正した。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた観光業界の期待は高く、ムーブミーは年内をめどに車両を1000台に増やす。
課題も残る。タイはトゥクトゥク以外にも、バイクタクシーや小型トラックの荷台に座席を取り付けた「シーロー」や「ソンテウ」といった多様な交通手段がひしめき、競争は激しい。過去には配車サービスの登場で顧客を奪われたとして、バイクタクシーの運転手らが反対運動を起こした。
トゥクトゥクの配車サービスでも、同様の問題が生じる可能性がある。グラブの現地法人は「現地の運転手らの収入拡大にも貢献する」とする。普及には、既存サービスとの折り合いが必要になりそうだ。
(バンコク=井上航介)
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