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BNYメロンCEO、デジタル資産保管「アジアで提供計画」

米金融大手バンク・オブ・ニューヨーク・メロンがアジアで事業拡大に乗り出す。ロビン・ビンス最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材で、トークン(電子証票)化した証券や暗号資産(仮想通貨)を保管するサービスについて、アジアを含む世界での提供を計画していると明かした。大手同士の競争が激しくなるなか、テクノロジー活用が成長持続のカギを握る。

BNYメロンの前身は1784年に設立され、米国最古の銀行といわれる。投資家の株式や債券を預かるカストディー(資産管理)業務は世界最大で、取扱資産残高は30兆ドル(約3840兆円)に達する。日本を含む世界で証券の貸し出しや担保管理業務も手がける。ビンス氏は2020年に米ゴールドマン・サックス幹部からBNYメロンに転じ、22年8月に同社のCEOに就任した。

ビンスCEOは経営トップ就任後初めて日本を訪問した。顧客の資産運用会社は運用報酬引き下げ競争にさらされており、カストディー業界に対する手数料低下圧力も強い。BNYメロンはIT(情報技術)を活用した証券保管サービス効率化で、業界全体のコスト削減を進めようとしている。ビンス氏は「デジタル化は日本で重要なテーマ」と述べたうえで、顧客と協力する考えを示した。

新たな成長分野としてデジタル資産ビジネスに力を入れる。21年に専門部署を立ち上げ、22年10月に米銀大手で初めて仮想通貨を含むデジタル資産保管サービスを米国で始めた。ビンスCEOはアジアを含む海外展開について「私たちは世界で事業を手がけており、時間をかけてあらゆる顧客に提供することになる」と述べた。機関投資家の需要などを見極めたうえで、サービス提供のタイミングを探る。

BNYメロンが見据えるのは、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使って資産を電子的に発行したり、流通させたりする「トークン化」時代だ。運用ビジネスやカストディー事業のあり方が大きく変わる可能性がある。BNYメロンは「今後10年、20年、30年かけてあらゆる資産がトークン化されていく」(ビンス氏)との見立てから、他社に先駆けてサービスを始めた。

不動産投資はトークン化で拡大が見込める分野だ。複数の建物を組み入れた不動産投資信託(REIT)はすでに存在するが、トークン化によって情報と結びつけたカスタマイズが可能になる。例えば空港から近いビル、民主主義国の不動産を束ねた投信など、顧客ニーズに応えた商品を低コストで組成できる。

トークン化によって運用商品はデータの固まりとなる。顧客の資産を守るカストディー業務では、サイバー攻撃対策が一段と重要になる。BNYメロンは仮想通貨カストディーを手掛ける米新興企業ファイアブロックスに出資し、デジタル資産を安全に保管する技術を共同で開発してきた。

仮想通貨交換業大手FTXトレーディングによるずさんな顧客資産管理が明るみに出た。デジタル資産の一部である仮想通貨で企業統治や情報開示の不備、脆弱性の問題が相次ぐと、デジタル資産全体への関心が薄れる恐れがある。BNYメロンのビンスCEOは信頼確立に向けて「ルールが必要」と強調する。

8兆ドルの金融資産を運用するブラックロックも動く。22年11月下旬、ラリー・フィンクCEOは米紙ニューヨーク・タイムズ主催の会合で「トークン化された証券こそが次世代の証券だ」と述べた。世界最大の運用会社とカストディー機関が本腰を入れ始めたことで、トークン化の流れが速まる可能性がある。

BNYメロンはブロックチェーン技術の知見を決済分野でも生かそうとしている。21年、デジタル貿易金融コンソーシアム「マルコポーロ・ネットワーク」を活用すると表明した。貿易取引の状況を把握しやすくなり、運転資金をすばやく提供できるようになると期待されている。三井住友銀行がマルコポーロに出資するなど、アジア太平洋地域で同社の基盤を利用する動きが出ていた。

カストディー業界の競争軸、規模拡大からテック活用へ

カストディー業界はM&A(合併・買収)などを通じて上位へのシェア集中が進んだ。BNYメロンやステート・ストリート、JPモルガン・チェースなど6社で世界の運用資産の8割を管理しているとされ、規制当局は寡占化に目を光らせる。大手各社の競争軸は規模拡大からテック活用に移った。

カストディー業界は巨大な装置産業だ。世界の機関投資家にサービスを提供するグローバルカストディアンと、特定地域や市場に特化したローカル(サブ)カストディアンに分けられ、後者には三井住友トラスト・ホールディングスが出資する日本カストディ銀行などがある。両者が協力しあうことで、世界で100兆ドルを超える運用資産を管理している。

指数連動の「パッシブ運用」が普及し、顧客の資産運用会社が巨大化した。カストディー業界に対する手数料引き下げ圧力は高まっている。BNYメロンのビンスCEOはカストディー事業について「規模があってはじめて成り立つビジネス」と話す。管理資産を増やし「規模の経済」を働かせることで、コスト削減を実現しているからだ。

一方、規制当局は業界の上位寡占に目を光らせる。業界3位のステート・ストリートは11月末、米ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの資産管理部門買収を撤回すると発表した。買収計画は21年9月に公表されたが、規制当局の審査が長引いていたとされる。

当局の慎重姿勢を受けて、大手各社はM&Aによる規模拡大よりも、テックを活用した自力成長に経営資源を振り向ける。ブロックチェーン技術とデジタル資産は有望分野の一つだ。

JPモルガンの証券サービス部門グローバル責任者、テレサ・ハイスンレザー氏は中央銀行の発行するデジタル通貨(CBDC)に注目する。トークン化した資産が広く使われるようになるには、信頼できる決済メカニズムが必要との認識を示したうえで、「中銀の信用力に裏打ちされた通貨が普及を後押しする」と述べた。

(宮本岳則)