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宇宙開発、黄金期へ2 「10万ドルで火星へ」

米国テキサス州、メキシコとの国境の街ブラウンズビルで火星を目指す壮大な試みが進む。人口20万人にも満たない街からボカチカ海岸へ車を30分走らせると、スペースXの宇宙基地「スターベース」が姿を現す。

目立つのは高さ100メートル級の3棟のロケット製造設備だ。その中には建造中の巨大ロケットが見える。高さ数十メートルのブースターも野外に置かれる。射場には、燃料を運ぶタンクローリーや大型クレーンが出入りし、燃焼試験などの準備が進む。

スペースXは14年、ボカチカに宇宙基地を建設すると発表。創業者のイーロン・マスクは2050年までに火星に100万人が移住する構想を掲げ「スターシップ」と呼ぶ大型ロケットを開発している。マスクは隕石(いんせき)の衝突といった地球に人類が住めなくなる事態を想定し、地球以外の惑星にも「街」が必要だと主張する。

10年間で1000機のスターシップを造る構想を持つ。23年にはZOZO創業者の前沢友作を乗せて月の周回旅行をし、その後、火星に100万人を送る青写真を描く。マスクは「移住費用が10万ドル(約1300万円)ならば、誰でも行けるようになる」と価格にも言及する。

試験時に周辺の観光客などに伝える通知の履歴をみると、試験を月数回の頻度で実施している。従来のロケット開発では考えられないスピード感だ。

スペースXはブラウンズビルで約100人のエンジニアを募集中だ。従業員の住居や仕事場の確保のために基地周辺には50台以上のトレーラーハウスが設置され、戸建て住宅も急ピッチで建設された。ブラウンズビルの不動産価格は上昇している。

課題は山積する。電力システムや資源採掘などで新技術が必要だ。宇宙探査の技術開発に詳しい米コロラド鉱山大教授のクリストファー・ドライヤーは「目標の50年まであと27年しかない」と話す。

スペースXは常識を破る「再利用できるロケット」を開発し、打ち上げ費用の価格破壊を起こした。米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士も同社のロケットを使う。企業価値は約1400億ドルともいわれる。NASA長官のビル・ネルソンは同社の火星計画について「技術開発で企業も役割を担う」と一目を置く。誰もができないと思うことをやり遂げてきたのがマスクだ。

(敬称略)