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AI研究、中国突出 論文の質・量で米国引き離す 企業10強にも4社 日本は低下、量で9位に

人工知能(AI)の研究で中国が存在感を増している。過去10年の各国のAIに関する論文の量や質を調べると、中国が2019年に質の面でも首位になって以降、2位の米国を突き放す傾向が鮮明となった。企業別でも中国勢は上位10社に4社が入り勢いが目立つ。国力を左右するAIを巡る競争は米中の覇権争いの主戦場になっている。

 

日本経済新聞がオランダの学術情報大手エルゼビアの協力を得て分析した。約800種のAIに関するキーワードなどから12~21年の学術論文や学会論文を対象に、国や企業ごとの「研究力」を調べた。今のAIブームは「深層学習」と呼ぶ技術の革新をきっかけに12年ごろに始まっており、画像認識や文章作成など幅広い分野を網羅した。

AI関連の論文数は世界で12年の約2万5000本から21年には約13万5000本に達した。特に目を引くのが中国だ。数では一貫して首位を保ち、21年には米国の約2倍の4万3000本と勢いを増している。日本は16~19年の6位から21年には9位に下がった。

論文の質でも中国が優勢だ。他の論文による引用数が上位10%に入る注目論文の数を質の指標とした。12年時点では米国が629本で首位、中国は425本の2位だった。その後、中国は猛追し、19年には米国を抜き首位に立った。21年は米国より7割多い7401本と独走する。日本は21年には18位にとどまる。

今後も中国の勢いが続く可能性はある。中国は17年に定めた「次世代AI発展計画」で30年までに世界の主要な革新の中心になると掲げるなど、AI開発を強化している。政府直属の最高研究機関である中国科学院や清華大学など大学や研究機関の研究力も高い。

3期目を迎えた習近平(シー・ジンピン)国家主席は22年12月、23年の経済運営方針を決める中央経済工作会議で「AIなど先端技術の研究開発と活用を加速する」と強調した。中国の産業政策を担う工業情報化省は1月11日、23年の重点課題として、AIなどの新興産業の成長を加速させる方針を示した。米国も16年にまとめた「AI研究開発戦略計画」などで開発を進めてきたが対抗しきれていない。

一方、企業別では米国がなお優位だ。量の面ではマイクロソフト、グーグルを傘下に持つアルファベット、IBMがこの10年間の3強だ。質の面でも、21年の注目論文数の上位10社は、首位のアルファベットをはじめ米国勢が6社を占めた。

 

 

ただ、勢いは中国企業にある。量の面では12年時点で上位10社に1社入る程度だった。質の面でも16年時点では米国と大きな差があった。だが21年には量・質ともに上位10社に騰訊控股(テンセント)や華為技術(ファーウェイ)など4社が食い込んだ。

中国企業で有数の研究力を誇る国有送電会社・国家電網は、数億にのぼるスマートメーターなどから集めたビッグデータを分析し、電力の需要予測やトラブルの検知などに役立つ技術を開発する。量・質ともに11位の百度(バイドゥ)は完全無人の自動運転タクシーを中国で運行する。

AIの研究成果は実用化につながりやすく、米中の企業はこぞって開発に力を入れる。今後も激しい争いが予想される。日本勢トップはNTTで質では17位にとどまる。

AIは様々な産業の競争力を左右する。アルファベットが抱える英ディープマインドは21年に体内などのたんぱく質の構造を予測するAIの論文を発表した。創薬を改革すると期待を集める。

米中対立の影響は論文数にも出ている。従来、米中は競争相手である一方、協力先でもあった。両国の共同の論文は19年まで平均年4割のペースで増えていた。だが、政治や経済で対立が続き、20年の伸び率は11%、21年は6%にとどまった。科学技術振興機構(JST)の鈴木和泉フェローは「米政府の中国への対応は変わらないとうかがえる」と指摘する。

中国は欧米への留学から帰国した研究者が活躍し、自力で優れた成果を生む態勢を整えつつある。AIに限らず、多くの研究領域で米国をしのぐ。AIは軍民両用技術の代表例でもあり、研究力の優劣は産業競争力だけでなく国の安全保障にも関わる。

岸田文雄首相は13日にバイデン米大統領と会談し経済安全保障の確保の重要性で一致した。半導体などと並びAIも協力対象になる見通しで、日米が連携して中国にどう対抗するかが問われる。

(福岡幸太郎、多部田俊輔、生川暁)