投機筋が国債を売る姿勢を強めるのに対し、日銀は長期金利を抑え込むために国債の買い入れを増やすなど防戦に追われている。国債市場の利回りには「ゆがみ」が色濃く残り、日銀の金融政策の再修正に向けた市場の圧力が強まっている。(1面参照)
長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは13日午前に一時0.545%まで上昇した。日銀に0.5%という低い利回り(高い価格)で売ることができるのに、わざわざ高い利回り(安い価格)で国債を市場売却した証券会社など、「日銀に売れない」市場関係者がいたもようだ。
日銀は大量に国債を買い入れる一方、市場の流動性を保つために証券会社の債券ディーラーなどに国債を貸し出す。この場合、債券ディーラーなどは日銀から借りた国債を日銀に売ることができないため、市場で売らざるをえない。
13日はこうした売りを吸収できないほど買い手が乏しく、長期金利が日銀の上限を超えて上昇した。
このルールは日銀から国債を借りて空売りする動きを封じる狙いとされる。金利上昇圧力を止める仕組みのはずが、日銀の国債買い入れ効果を弱め、上限突破の原因になってしまったというわけだ。銘柄によっては、日銀が国債をほとんど吸収してしまう長短金利操作の限界が透ける。
日銀は13日、5兆円もの国債を買い入れており、12日に続き2日連続で過去最大を更新した。2日間の買い入れ額は10兆円ほどに達した。2022年に日銀が国債を購入した日を対象に1日あたりの平均買い入れ額をみると9900億円ほどだった。この2日間はその5倍のペースで買い入れている計算だ。
ここまで日銀が国債を買わざるを得ないのは、日銀が17~18日に開く金融政策決定会合で金融緩和をさらに縮小するとみる海外投資家が増えているためだ。国債を借りて「空売り」をしておけば、日銀が上限を引き上げるなどして国債の利回りが上昇したときに買い戻すと利益が出る。「海外のヘッジファンドは政策を変えるという確信の下で国債を売っている」。ある外資系証券の関係者はこう明かす。
日銀は昨年12月に長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた。長期金利だけが低く抑えられてしまい、10年債の利回りを基準として企業が出す社債などの発行に問題が生じていたからだ。その状況は足元でも変わっていない。
国債の残存年限(満期までの期間)ごとの金利をつなげた利回り曲線(イールドカーブ)は、一般的に残存年数が長い国債ほど利回りが高くなる。足元では残存8~9年の国債利回りが0.6~0.7%ほどで、日銀が金利を操作する10年債の利回りを大きく上回る。
イールドカーブのゆがみを解消するには、無理やり抑えつけてきた長期金利の上限をさらに引き上げるか、上限そのものを撤廃するしかない。英リーガル・アンド・ジェネラルのクリス・ジェフリー氏は「市場のゆがみが、政策の持続可能性を巡る投資家の懸念を招いている」という。
日銀は政策を再び変えるのか。足元では物価高の主因として政府が神経をとがらせてきた円安は一服しつつある。日銀内では現時点で「(政策の再修正について)もう少し様子をみるべきだ」との意見が多くある。
日銀は昨年12月に市場が予想をしていないタイミングで長期金利の上限を引き上げた。不意を突かれた市場は疑心暗鬼に陥っている。国債買い入れの増加で流通する国債が事実上枯渇するというような副作用もかつてないほど目立つ。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「(日銀が政策修正する可能性は)五分五分に近い」とみている。
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