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中国、IT締めつけ転換 税収減・若者雇用悪化に危機感

税収減少や若者雇用悪化への危機感が背景にありそうだ。新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策の撤廃と並び、景気回復のけん引役にしたい思惑とみられる。

アリババ集団傘下の娯楽関連会社の株式1%を、政府機関傘下の会社が取得したことが13日、わかった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、通常の議決権よりも強い権限を持つ「黄金株」に似た株式という。FTは騰訊控股(テンセント)についても株式取得に向けた協議が進んでいると伝えた。

IT大手への出資の伏線は1週間前にあった。

「プラットフォーマー企業14社の金融業務は基本的に是正を完了した」。金融監督当局トップの郭樹清氏はネット金融への監督強化が成果を収めたと宣言した。7日夜、国営新華社が伝えた。

7日昼にはアリババ傘下の金融会社アント・グループが、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏の実質的な議決権比率を下げ、経営権を持つ実質支配株主から外れたと発表した。アントからの馬氏の影響力排除が、「是正」の総仕上げであることを示唆した。

郭氏は「プラットフォーム企業の健全な成長を促す」とも語った。昨年12月に共産党の中央経済工作会議が決めた「経済成長のけん引、雇用創出、国際競争において発展を支援する」との表現も踏襲した。IT企業を景気回復のけん引役とするため、国が出資して関与を強めるとみられる。

習指導部がIT業界の締め付けを強めたのは2020年秋から。馬氏が同年10月、政府批判と受け取れる発言をすると、直後の11月初旬、アントが上場延期に追い込まれた。アントはスマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」で10億人超のデータを握る。民間のIT企業が決済網を握ることへの警戒感があった。

習指導部は「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げる。IT企業が巨額の利益を稼ぎ、独占的地位を利用して取引先に圧力をかけたことも統制強化の原因とみられる。

政府は独占禁止法違反などでアリババなどに巨額の罰金を科した。21年にはデータ安全法と個人情報保護法、22年には改正独禁法をそれぞれ施行した。取引先への圧力をけん制し、M&A(合併・買収)の届け出義務違反も厳罰化した。

副作用は深刻だ。IT業界を含む「情報伝達、ソフトウエア、ITサービス」の実質国内総生産(GDP)は18年に前年比27.8%増えた。その後も2割前後の成長を保ったが、22年1~9月は前年同期比8.8%に失速した。22年の中国成長率は3%前後と目標の「5.5%前後」に届かない見通しで、IT産業の低迷も原因の一つだ。

ネットサービスやソフト開発などの業界は35歳未満の従業員が7割を占める。16~24歳の比率も17%に達し、全産業平均(7%)を大きく上回る。業界の収益悪化は若年雇用を直撃した。

若年失業率(16~24歳)は22年7月に最高の19.9%を記録。11月は17.1%まで下がったが、依然として前年同月を上回る。就職難の若者はゼロコロナ政策への抗議運動にも参加しており、放置すれば社会不安につながりかねない。

IT業界の失速は税収の落ち込みにも拍車をかけた。1~11月の税収は前年同期を7.1%下回った。IT産業のGDPが3割近くも伸びた18年の前年比8.3%増と比べると見劣りする。

「中国経済の未来は明るいです」。1月、国営中央テレビ(CCTV)の番組にはアリババトップの張勇氏ら21人の民間企業家がそろって登場し、中国経済への楽観論を振りまいた。ネット通販大手の京東集団や旅行予約サイトの携程集団などIT企業大手の首脳も参加した。多忙な民間企業の経営者がこぞって番組に登場した背景に、習指導部による「出演要請」があったとみられる。

米国との貿易戦争や不良債権処理で株価が急落した18年秋も、劉鶴副首相らが登場して民間企業をさかんに持ち上げた。IT企業への唐突な「ほほ笑み」の裏に、中国経済の深刻な停滞への指導部の焦りが透ける。

もっとも、国が運営に口出しする企業がイノベーションの担い手になることは少ない。出資などで国が関与を強めるほど、IT企業を経済成長のけん引役とする目標の実現は遠のく恐れがある。

(北京=川手伊織)