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マンション耐震、診断も進まず 資産価値への影響に不安 阪神大震災28年

17日で28年となる阪神大震災では被害が深刻化したうちの約9割を旧基準の建物が占めた。首都直下地震が懸念される東京都も2021年末時点で、旧基準の16%でしか耐震性が確認されていない。工事の要否をはかる耐震診断の実施でさえ全国的に低調だ。診断結果が資産価値に与える影響への懸念が根強い。

不動産関連調査会社「東京カンテイ」(東京・品川)の調査では、阪神大震災で構造部分に致命的な損傷を受けて「大破」と判定された分譲マンションは兵庫県内で約80棟ある。9割近くは耐震基準を強めた1981年より前に建てられていた。

阪神大震災を契機に耐震化への意識は高まったが、十分に進んでいるとはいえない。国土交通省によると、全国の分譲マンションは住戸数で約686万戸(2021年末時点)に上り、うち約103万戸(推計)を旧基準が占める。18年度の抽出調査では、改修などで耐震性を満たすと確認された建物は2割。東京都でも、旧基準のマンション約6900棟のうち21年末で16%にとどまる。

工事を進めるハードルの一つが、物件所有者の合意形成だ。

阪神大震災で一部損壊した神戸市内のマンションでは、昨年12月に改修が始まった。約19億円に上る総工費は補助金と金融機関からの借り入れ、各戸の自己負担で賄った。「多額の資金負担に理解を得るのは容易ではなかった」(住民)という。

政府は合意条件の緩和を検討するが、工事の要否を判断するための耐震診断もおぼつかない。18年度の抽出調査で診断を実施済みだったのは約3割にすぎない。

16年4月の熊本地震で大きな被害を受けた熊本市は耐震化を後押しするため、19年度に診断などの費用を補助する制度を設けたが、利用はまだない。担当者は「所有者の間に、耐震不足という結果が出て、資産価値が下がるとの懸念があるのではないか」と明かす。

複数の自治体は一定の基準を満たすマンションの安全性を認定し、公表する制度を始めた。建物の耐震性や防災備蓄などの対策に「お墨付き」を与え、物件としての価値を高める狙いがある。大阪市が09年にスタートさせたのを皮切りに仙台市、横浜市などが取り組む。

不動産鑑定士の田村誠邦氏は「耐震化を行えば資産価値が上がり、長期的に見て所有者にメリットがある」と話す。

名古屋大学の福和伸夫名誉教授は「行政は災害に強い住環境づくりを市民任せにしてはいけない。耐震化によって生活が守られ、不動産価値が上がることを丁寧に説明することで、住民が耐震化に乗り出す後押しをし、一体で対策に取り組むべきだ」と指摘している。

(佐野敦子、桜田優樹)