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ビジネス、ギャルに学べ 景気「うちらがアゲる」

 

エスビー食品のギャル式ブレストの様子

硬直したアイデアや沈黙の多い行き詰まった会議、わかりにくい資料――。そんな問題を抱える日本企業がギャルと突破口を探している。不確実性の高いこの時代、ギャルの発想力や率直さはビジネスにとっても大きなヒントとなり得る。大人が失ってしまったパワーで未来を切り開くギャルたちと、翻弄されつつも新たな気づきを得た企業を追った。

「過去最高業績→最大もうかった」 決算資料、ギャルの言葉で言い換えると…

「他社から面白い資料が出始めている。うちも面白いことをやりたい」。ゲームなどを手掛けるIT(情報技術)企業のカヤックは2022年、決算説明会の資料づくりで悩んでいた。

業績について解説する決算資料の表現は専門用語が多く、総じて硬い。株主の裾野を広げるにはもっと伝わりやすくする必要がある。面白プロデュース事業部の合田陽太郎さんは「ネガティブにしてみたら面白いかと1度は書いてみたが、びっくりするほど面白くなかった」と振り返る。

では逆にポジティブにしてみてはどうか。こう考えたカヤックが知恵を借りたのが「ギャル高」の異名を持つブレア学園(東京・目黒)の現役ギャルたちだ。

カヤックのギャル決算

「四半期ベースの過去最高業績を達成」は「最大もうかった!」、ゲームライブ配信アプリを手掛けるミラティブ(東京・目黒)の開発パートナーとしてゲーミング配信市場に参入することは「ミラティブとマブダチになったよ~~」に変換。橋渡し役として呼ばれたブレア学園卒の板井綾子ディレクターは「ギャルの言葉はシンプルで芯を捉えている」と話す。決算書をみせると初めはぽかんとした様子だったというギャルたち。「要点を絞って含みのない説明をする必要があり、結果としてわかりやすい表現にできた」(板井氏)

約6時間をかけて作成したギャル決算資料。「解読しにくいところがある」と正式公開は見送られたものの、作成過程をホームページで公開したところ「年間で1、2を争うアクセス数を記録」(カヤック広報の渡辺好恵さん)した。反響の大きさから、過去の決算資料をギャル決算化できるサービスを数社限定で販売することも決めた。合田さんは「今後、難しいことは全部ギャルに説明してもらったほうがいいかもしれない」と語る。

エイベックス子会社のエイベックス・エンタテインメントは22年6月からブレア学園の協力を得て、高速ダンス音楽ブランド「DNQ BASS(ドンクベース)」のプロモーションを始めた。ドンクベースの曲を使い、ギャルに「TikTok(ティックトック)」に動画を投稿してもらう。

エイベックスのダンスミュージックブランド「ドンクベース」プロジェクト

リアルな感覚を生かしてもらうため、動画の内容や作成方法などは原則すべてお任せ。フォロワーゼロからの立ち上げにもかかわらず、10日間で2万回再生を超える動画が出るなど滑り出しは好調だった。企画を手掛けたレーベル事業本部の米田英智ゼネラルプロデューサーは「10代ならではの感性と発信力がある。彼女たちの感覚に任せていたからこそプチバズが生まれた」とみる。「エイベックスは2000年前後のギャルカルチャーが生まれたときから『パラパラ』など流行を共に作ってきた。最近は世間的にも再びギャルのニーズが高まっている。彼女たちのビジュアル含めた時代性、エネルギーでムーブメントを作れれば」

市場開拓の糸口をギャルと探したい企業は徐々に増えている。ブレア学園を運営するブレア(東京・目黒)教育事業部部長の中野純吾氏は「企業などからの引き合いがすごく増えた」と話す。「バズらせたい、若い子の意見を取り入れたい、というニーズが多い」。ファッションや美容への感度が高い層が集まっていることもあり、アパレルや美容業界からの引き合いが多いが、足元では自治体や不動産開発会社など堅い業界からも問い合わせが相次ぐ。

なぜ今ビジネスにギャルが求められるのか。中野氏は「企画会議で大人が絞り出したものほどうまくいかない」と話す。「オリジナリティーやブランド力をつけるには一般常識に縛られてはいけないが、今は炎上しない安全な範囲内でものやサービスを作ろうとするため同じようなものができてしまう」。ギャルの目線が斬新なのは「世間を知らないからという側面もあるが、常識がないからこそ面白いことを言える」(中野氏)。

企業と一緒に仕事をすることで、生徒や学生側にも社会のルールや自分の向き不向きに気づくメリットがあると中野氏は話す。「叱られて泣きながら帰ってくるケースもあるが、それも勉強。正しいことを教えつつ個性を伸ばしたい」

行き詰まった会議にギャル派遣

会議に新風を吹き込むギャル派遣サービスも人気だ。CGOドットコム(東京・渋谷)が提供する「ギャル式ブレスト」はギャルを企業に送り込み、会議を活性化させる。社名のCGOは「チーフ・ギャル・オフィサー」の略。価格は1回50万円からだが、これまでに東急建設三菱鉛筆などが相次ぎ導入してきた。

CGOドットコムとオプテージが実施した「ギャル式ブレスト」

会議のルールは独特だ。自分の持っている中で一番派手な服を着て臨み、目上の人にも敬語は禁止。ギャル式ブレストを導入した関西電力子会社で格安スマホ「マイネオ」を手掛けるオプテージ(大阪市)の冲中秀伸さんは「誰が何を言っても受け入れられる環境ができあがっていたので、アイデアがどんどん広がっていくのを体感した」と振り返る。「発言しやすさだけではないグルーヴ感が生まれていた」

今年創業100周年を迎えたエスビー食品もギャル式ブレストをテスト実施。参加した社員からは「頭がほぐされた感じがした」「自分の意見を肯定してもらえてうれしかった」などの感想が寄せられた。

CGOドットコム総長のバブリー氏は「ギャルマインドで世の中をアゲにする」と語る。「昔は技術がアイデアに追いつかなかったが、今はアイデアが追いつかない。企業はお金も人もあってなんでもできるのにやりたいことがないと感じる」。会議が形式的になってしまい、言いたいことがいえないのが問題だとバブリーさんは指摘する。

そもそもギャルとは何か。取材したギャルたちは「ギャルはマインド」と口をそろえる。ギャルファッション誌「egg」の編集長を務めた赤荻瞳さんは「ギャルマインドとは自由と個性」と話す。「ギャルは芯が強く、肝が据わっている。素直で思ったことが顔や口に出るので裏表もない」。CGOドットコムで活躍するリリースペイシーさんは「自分軸と直感性、ポジティブ思考。世の中に流されず、自分の美学でどう生きたいか」と説明する。「間違ってると思ったら間違ってるよ、ダサいよって言う。思ってること言うだけ」

現役ギャルたちの多くは物心がついてこの方、景気低迷が続き、東日本大震災や新型コロナ禍などの災害に直面してきた。だが、困難な時代だからといってくじけないのがギャルマインドだ。「上の世代が作り出したサゲが押し寄せてるけど、うちらでアゲてくしかない。一回きりの人生だから」(リリースペイシーさん)。不透明感と閉塞感が漂う今、活路が見つからないならギャルの手を借りてみてはいかがだろうか。

egg元編集長、ギャルの夢後押し

1990~2000年代の全盛期からギャル人口は大きく落ち込んだ。だが、ギャルマインドは次世代へと受け継がれようとしている。ギャルファッション誌「egg」の元編集長、赤荻瞳さんは「渋谷から世界に羽ばたく人材」の育成を目指す。4月から渋谷女子インターナショナルスクール(渋女)校長として、世界で活躍する起業家やクリエーター、インフルエンサーの輩出に挑む予定だ。赤荻さんの次なる挑戦について聞いた。
赤荻瞳 渋谷女子インターナショナルスクール校長(エムアールエー社長、egg元編集長)
――なぜ学校を立ち上げることにしたのですか。

「高校生から渋谷にいて、渋谷に関わる仕事がしたいと思った。eggには30人ほどのモデルがいたが『アパレルブランドを立ち上げたい』『カラコンを作りたい』といった夢があり、それをかなえていく姿に感動した。自分自身も渋谷の人脈があったからこそ、こういう立場に立たせてもらえている。eggでギャルという文化は伝えられ、目標は達成した。次は若い女性を応援する仕事がしたい」

――ご自身も高校生サークルに所属されていた経験があります。

「今は渋谷に集まって何かするイベントサークルのようなものがなくなった。コミュニティーがストリートからSNS(交流サイト)に移ったので渋谷に実際にいる子は少なくなった。SNSでもつながれるけど、パワーを持て余しているように感じる。自分でブランドを立ち上げたいなど、何かしてみたい子は多い」

――英語教育に力を入れるなど、世界を意識したカリキュラムを用意しています。

「日本でなく世界を目指したいと思った。英語と動画制作などのクリエーター能力があれば世界で活躍できるし、夢は大体かなう。自分自身に能力があった方が将来は安定する。渋谷から世界を目指してほしい。例えば渡辺直美さんのようなインフルエンサーや、JK(女子高生)起業家を生み出すのが目標だ。TikTok(ティックトック)などを見ていると10代からこんなアイデアが生まれるんだと驚き、ポテンシャルを感じる。渋女からムーブメントを巻き起こしたい」

「TGC teenやeggへのインターンなど、渋女ならではの授業も用意している。高校生のうちから自分で成功や失敗の体験を重ねてほしい。やってみないとわからないことはある。講師も現役で活躍するクリエーターやモデルを起用した。最前線の人じゃないと遅れた情報になってしまう。カリキュラムは3カ月ごとに見直す方針だ」

――なぜ今、ギャルの力を借りたい企業が増えていると思いますか。

「みんな暗いから明るいものにひかれるのでは。ギャルは行動力があってポジティブだ。昔はよかったとか比べることはない。私にとってギャルは一生スペシャルな存在だ」

(岸本まりみ)