外資系ホテルで地方に拠点を広げる動きが活発になってきた。米ヒルトンは2026年までに富山など地方を中心に国内の拠点数を2倍の40に増やす。新型コロナウイルス禍で経営が厳しい施設の運営受託も検討する。インバウンド(訪日外国人)の地方訪問意欲が高まる中、米マリオット・インターナショナルも拠点の拡充を計画する。東名阪などに偏った訪日客の分散が進めば、消費の底上げにつながる。
ヒルトンは23年に富山市で宿泊特化型ブランド「ダブルツリー」を北陸で初めて出店する。21~22年に長崎や広島などで主力ブランド「ヒルトン」を開くなど、地方の拠点を拡大している。

日本で展開していない長期滞在者向け業態や中価格帯ブランドも数多く抱え、未進出の県庁所在地などを軸に複数の新ブランドを出す予定だ。隣り合った客室を連結して使え、ビジネス客から家族まで取り込める「モットー」などを候補に入れる。
従来は東京や大阪など観光とビジネスの両面の需要が見込まれる都市圏や、沖縄など旅行支出の大きい観光地を中心に価格帯の異なる複数のブランドを展開していた。施設が近いため、人員を融通し合うなど運営上の利点があるほか、世界で1億人規模の会員網を活用して効果的な販促を打ち出せるためだ。
外資ホテル大手の多くは自社で不動産を持たず、オーナーから運営権を受託する方式、あるいはブランド名や運営ノウハウを共有するフランチャイズ(FC)方式などで出店し、初期投資を抑えて柔軟に事業を拡大できる。ヒルトンはコロナ禍で経営が厳しくなった施設の運営受託で拠点を増やすことも検討する。
米マリオットは国内の道の駅周辺を中心に開業し、24年末までに運営ホテルを現在より3割多い約100施設にする。米ハイアット・ホテルズ・コーポレーションも共同出資会社を通じて25年をメドに温泉旅館を開く考えだ。
外資系ホテルが地方に照準を合わせる背景には訪日客の潜在的な需要がある。日本政府観光局(JNTO)が21年に調査したところ、東南アジア・東アジア地域の7~8割が地方訪問を望んでいることが分かった。米国でも56%だ。東京や関西など都市圏での訪問経験が増え、地方への観光意欲が高まっている。
訪日リピーターにはアニメや映画で登場する地方の観光地などを巡りたいという需要がある。ただ「自分に合った宿泊施設を探して、予約から決済までするのはハードルが高い」(ヒルトン担当者)とみており、世界的に知名度の高い外資系の出店余地が広がる。
国内勢も地方への誘客に取り組む。JR東日本は台湾とシンガポールで日本国内のツアーなどを販売する専用サイトを12月に開いた。グループのホテルでの宿泊と新幹線の運転シミュレーター体験をセットにしたプランや盛岡市の車両基地見学などを用意する。
JR東日本シンガポール事務所の阿部智成ゼネラルマネジャーは「アジア圏からの訪日客はリピーターも多く、家族連れなどにも訴求したい」と説明する。ツアーは月数本ペースで投入し、23年末までに4000人の利用を見込む。
JTBは北陸経由で関東と関西を巡る「レインボールート」を23年の訪日ツアーから設定する。農業体験や古民家への宿泊などをセットにしたリピーター向けのツアーも開発する方針だ。これまでは大阪や京都、東京という大都市を東海道新幹線経由で観光する「ゴールデンルート」が主力だったが、新たな誘客を目指す。
政府は早期に訪日関連消費5兆円を目指しており、地方観光の盛り上がりがカギを握りそうだ。
新型コロナ禍前の19年は4兆3650億円(都道府県間の交通費を除く)で、東京や大阪など上位10都道府県で全体の約9割を占めた。年間消費額が100億円に満たない県は19ある。東京女子大学の矢ケ崎紀子教授は「リピーターづくりと地方展開を進めなければ、業界の低い収益性も是正されない」と話す。
星野リゾート(長野県軽井沢町)の星野佳路代表は「東京や大阪は文化中心の観光だが、地方には自然を観光できる魅力がある」と、潜在力は大きいとみている。国内勢と外資勢で地方の拠点拡大を競う動きが強まりそうだ。
(佐伯太朗、石崎開)
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