2022年2月期は6.6%と5年前に比べて7ポイント近く下がった。グループ再編など事業ポートフォリオの見直しを効率改善の一手としていたが、子会社成城石井の新規株式公開(IPO)は市場環境の悪化で先月、上場申請を取り下げた。26年2月期の目標に掲げるROE15%の達成には不透明さが漂っている。
22年9月に東京証券取引所に上場申請した成城石井は当初、上場時時価総額が2000億円を超えると見込んでいた。その後、各国中銀の利上げによって景気後退を懸念した投資家のリスクマネーが急速に細った。
金融情報会社のリフィニティブによると世界の22年の調達額が前年比6割以上減るまでIPO市場が冷え込んだ。成城石井も上場時の時価総額が「2000億円を下回る可能性もあり、取り下げはいたしかたなかった」(成城石井関係者)。
ローソンは子会社のまま上場することを企図していたとみられる。仮に成城石井の株式の50%程度を手放したとすると、連結純利益(22年2月期で179億円)の5倍強に当たる1000億円近い資金が入ってくる計算だった。資金は株主還元と成長分野への投資に充てて資本効率の向上につなげる予定だった。
QUICK・ファクトセットによるとローソンのROEは17年2月期までは10%を超えていたが、その後は下落傾向が続いている。3.2%まで落ち込んだ21年2月期にようやく底入れし、22年2月期は6.6%となったが5年前の半分の水準だ。

ROEを分解すると収益性の低下が主因であることがわかる。ローソン銀行の開業など金融事業が加わったこともあり、財務レバレッジは22年2月期で5倍と17年2月期(3.1倍)より高まった。総資産回転率は0.52回と17年2月期(0.76回)から低下しており、特に売上高純利益率が2.6%で17年2月期(5.8%)から大きく下がったことが、ROEを押し下げている。
仮に1000億円をすべて自社株買いに充てても、ROEは10%程度までしか上がらない。15%まで引き上げるにはコンビニをはじめとする各事業の収益性向上との組み合わせが必須となる。
ただ国内コンビニの投資効果は限定的だ。
エリアフランチャイズを除いたローソン単体の19年2月期から23年2月期(計画)の累計投資額は3931億円。1店舗あたりでは2828万円で、最大手のセブン―イレブン・ジャパン(2511万円)を上回っている。
ローソンは店内調理弁当「まちかど厨房」の導入を進めている。まちかど厨房は1店舗あたりの弁当やサンドイッチなどの売上高が3割高まるなど一定の効果がでている。それでも一般的なコンビニの競争力の指標である1店舗あたりの1日の売上高(平均日販)は22年2月期、ローソンは49万8000円とセブン(64万6000円)と約15万円の開きがある。
まちかど厨房はすでに全体の6割まで導入が進み、追加の大型投資は必要ない。店舗投資が上回っていても差は縮んでおらず、市場では「セブンとの日販差を議論する時代は終わった。上場益は国内コンビニ以外の成長に充てていくほうが合理的」との声があがる。

ローソンは「投資循環型」での成長を掲げる。資産構成を組み替えてこれから伸びるところに投資するのが基本的な考えだ。
成城石井だけでなく、中国コンビニ事業も上場や現地資本の受け入れなどを検討している。中国では足元の5000店から25年度には1万店にすることを視野に入れており、「現地化するためにも資本政策がより重要になっている」(ローソン)。
投資循環型のモデルケースとなるはずの成城石井の上場や売却の方針はいったん「白紙の状態」となった。ただ竹増貞信社長は日本経済新聞の取材に「もう一回全体の戦略を見直して23年度に向かっていかないといけない」と述べるなど、遠からず持ち分比率を下げる考えを示している。
14年に550億円で買収した成城石井は買収後ほぼ一貫して利益を増やすなどローソン傘下で企業価値を高めた。足元で上場時の時価総額が2000億円規模なら優良な投資案件といえる。

成城石井の22年2月期のROEは16.9%とローソン単体の5.8%を大きく上回る。JPモルガン証券の村田大郎氏は「仮に成城石井株の50%弱を売り出すと仮定すると、24年2月期の連結純利益を約17%下げる要因となる」と試算する。市場では「中期的な利益の流出を考えると上場するよりローソン傘下のままで良かった」という意見も根強い。
売却で得た資金を成城石井以上の高効率の案件に投資できなければ、一部でも成城石井を切り離すことは全体の効率を下げるリスクにもつながる。株主が納得する形の資本政策を示せるかが問われている。

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