米国も中国も影響力を誇示し、一歩も譲らない構えだ。
だが、台湾の足元にもう一つの危機が迫る。海に沈んでいることだ。
1年で合意に背
地元研究グループによると、地球温暖化による周辺の海面上昇は2039年に5.8センチメートル。今世紀末に島が最大1メートル沈むとの見方もある。台湾は周辺の海水温が高く緯度が比較的低いなど特殊条件が重なる。異常気象で首都機能を台北から移さざるを得なくなる懸念も語られ始めた。
温暖化対策で折り合えないばかりか、沈む宝を巡り大国が角突き合わせる。まるで滑稽な寓話(ぐうわ)のようだ。
分断に襲われ停滞する国際社会。そのひずみを端的に示すのが税制の迷走だ。パリの経済協力開発機構(OECD)本部ビル。22年11月の会議に招かれたのは25カ国だが、ネームプレートは25個に届かなかった。ロシアが欠席したからだ。
デジタル化に応じた税制で約140カ国・地域が合意して1年余り。「意見が反映されていない」(ナイジェリア)、「別の合意が必要だ」(南アフリカ)。背を向ける国が相次ぎ、新税制の実現が危ぶまれる。
国際社会がもたつく隙に徴税逃れが勢いづけば、税収減の打撃が跳ね返る。ほぞをかむのは国家だ。国の対立は本当の敵を利するだけでなく、自らのフェアネス(公正さ)まで傷つける。
税制だけではない。昨夏、世界のインターネット関係者が肝を冷やした。デジタルのコンテンツやデータに関税をかけない。そんな取り決めが破棄される寸前に追い込まれたときだ。
世界貿易機関(WTO)の取り決め延長に異を唱えたのはインドやインドネシア。打算が先走り、産業の発展や使い手の利便は二の次だ。
リーマン危機で機能したG20(20カ国・地域)も頼りない今。国連での投票行動を調べると、機能しない国際機関の実相が浮かび上がる。
日本経済新聞が1960年代以降の投票2万件超を分析したところ、足元で2つの行動が目立った。棄権と無投票だ。米欧に追随せず、ロシアや中国にも同調しない。はっきり姿勢を示さず様子を見る国が増え、結局何も決められない。
宇宙からの攻撃
米ソ冷戦下の1985年、スイス。「米国が宇宙から攻撃を受けたらあなたたちは助けてくれるか」。当時のレーガン米大統領が尋ねた。相手はほかでもない、敵国であるソ連のゴルバチョフ共産党書記長だった。
ゴルバチョフ氏が「もちろんだ」と応じると、レーガン氏も「我々もだ」と返した。ゴルバチョフ氏が2009年に明かしたエピソードだ。
幸運にも、米国もソ連も宇宙からの攻撃を受けることはなかった。しかし今、温暖化は着実に地球をむしばみ、パンデミックの恐怖は私たちの記憶に新しい。
「宇宙から眺めると地球はひとつの宇宙船だ」という宇宙飛行士、山崎直子さんの言葉は比喩ではない。分断にかまけている余裕はない。
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