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冷めていても政治を語る意味は Z世代、社会に意見表明 My Purpose 私が伝える みんなで調べる(3)

「若者の政治離れ」が叫ばれて久しい。根拠としてあげられるのは選挙の投票率の低さ。例えば2021年の衆院選の投票率をみると20代は36.5%。1967年の66.7%から30ポイント以上下がり、下げ幅は全世代的の中でも大きい。しかしそれだけを根拠に、若者が政治や社会の課題に対して関心を失っているといえるだろうか。

「若者で創る新聞社」

近年、社会問題を解決するための提案や、政治家への要望を自由に表明できる場やプラットフォームの立ち上げが活発だ。中をのぞくと、自身を取り巻く問題や関心を言語化しようと試行錯誤する若者の姿が目立つ。

「若者で創る新聞社」をキャッチフレーズに2022年7月、上智大学新聞学科の学生らが中心となり、ニュースサイト「パラダイスポスト」(本社は東京・渋谷)を立ち上げた。大手メディアやSNS(交流サイト)などで関心を集めた時事問題への意見・提言を中心に、30歳以下であれば誰もが自由に記事を投稿できる。大学生で構成する編集部が審査した記事は、経済や医療、アート、ジェンダーなど多岐にわたる。

発起人は同学科在学中の一城あやのさん(23)だ。メディアやエンターテインメント業界に進みたいという漠然とした思いから新聞学科を選んだが、本格的にメディアについて学ぶと、報道の自由には課題もあること、若者が意見表明に消極的なことの両方の問題が見えたという。「変化に柔軟でデジタルにも明るい若者が自由に意思表明できるメディアを自分でつくってしまえば、その両方を解決できるのではないか。そんな思いつきでした」

上智大学在学中にパラダイスポストを立ち上げた一城あやのCEO

中心になって運営するのは6人の大学生。自分たちの得意分野を軸に記事を執筆しつつ、一般からの投稿の内容がポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)に反していないか見極めたり、互いの記事が中立性を保てているか意見交換したりしている。学業やアルバイトもあるが毎週全員で集まり、会議は毎回2時間以上に及ぶ。

炎上騒ぎの亀裂を埋める意見も

笠井琴日さん(22)もライター兼編集者の一人だ。Z世代を中心とする若者の文化やジェンダー問題を中心に執筆してきたが、自身の経験を踏まえた当事者意識も織り込む。

例えば2022年、生理中の女性向けに赤い色のバスボム(入浴剤)を開発したメーカーがSNSなどで炎上した。この一件について12月に書いた記事では「『知らなかった』や『そんなつもりではなかった』は言い訳にすぎない」と指摘しつつ、「悪意のない失敗」に対して現代社会はあまりに厳しいという持論も展開した。賛否が分かれた炎上騒動の中で、亀裂を埋める第三極的な意見でもある。

運営者として中立性をいかに保つか、書いた記事の先に傷つく人はいないか。悩む日々は続く。それでも笠井さんには「パラダイスポストという場があるから、自分のやりたいことをできている」という前向きな気持ちの方が強い。

メッセージで脚光を浴びる時代を

編集長の一城さんは「音楽やダンスだけでなく、社会を変えるメッセージを発信することで若者がスターになれる時代を到来させたい」と力を込める。炎上リスクなどもあり、若い世代が声を上げづらい環境であることは理解しつつも、「若者が等身大の意見を表明して、多様な議論を生むことは間違いではない」と確信している。

一城さんは若者が社会に対する意見を発信することでスターになれる社会を目指している

そんな思いが形になりつつあるのか、一般からの投稿も徐々に増えている。当初は分野の偏りがあったものの、最近は若者に縁遠いとされてきた政治やマネーに関する投稿も増え、バラエティーに富み始めた。

現在、ツイッターなどのSNSに親しんでいる若者の多くがアカウントに「鍵」をかけ、自分の発言を非公開にしている。内輪だけで情報交換したい、見知らぬ人にプライベートを干渉されたくないといった理由もあれば、就活などで足をすくわれないようにといった消極的な判断による場合も少なくない。

一城さんは「パラダイスポストで表明した意見を並べれば、その学生の人となりが分かるポートフォリオとなり、企業が前向きに採用するといった好循環を生みたい」と話す。ウェブのリスクは熟知しているが、オープンに情報発信できる機運を高めたいと考えている。今年4月からシステムリニューアルでユーザー登録をできるようにするなど、収益化を目指して事業を本格化する。大学とも協力しながら初年度3万人のユーザー獲得を目指すという。

「デジタル民主主義」を推進

政治家が掲げる政策案に対し、一般の投稿者がコメントなどで政策推進を支援・応援できる――。政治家と有権者をダイレクトにつなぐ「デジタル民主主義」のプラットフォームが「PoliPoli」(ポリポリ、本社は東京・千代田)。伊藤和真さん(23)が慶応義塾大学在学中に立ち上げた。

現行の選挙制度のあり方に違和感を覚えた、とPoliPoliの伊藤和真 CEOは語る

きっかけは2017年の衆院選。投票用紙に候補者名を書く方法はアナログだと感じた。「個々の政策ではなく、政治家という人物に投票するという意思表明のあり方にも疑問を持った」。若者が政治に冷めている理由も、民主主義の仕組みそのものの問題のではないかと感じた。19年12月にサービスを正式に開始。立ち上げ時は3人だった運営メンバーも現在は30人以上に増えた。

ポリポリはデジタル民主主義を促進するためのプラットフォームであって、メディアではない。しかしその基盤上で運営する4つの事業の一つは、政治情報をわかりやすく発信するメディアとしての側面も持つ。また、行政が相談や意見を募集するテーマに対し有権者が自由に意見を言える「PoliPoli Gov」(ポリポリ・ガブ)を見れば、国や地方自治体の政治課題や有権者の生の声をメディアを見るように知ることができる。

意見表明が社会を変える

最近は学生など若い世代の投稿も目立ってきた。すべての投稿者に話を聞けるわけではないが「意見を表明することで社会を変える一助となり、自己肯定感が高まる経験を前向きに捉えるユーザーが多いのではないか」。

年齢・世代を問わず意見表明ができるポリポリの仕組みが浸透すれば、「選挙以外でも国民の声が政治に反映される『デジタル行政』が当たり前になるかもしれない」と伊藤さん。今後はサービスを地方や若い世代に浸透させ、声をより上げやすい環境をつくる考えだ。

政治をめぐる既存の言論に居心地の悪さを感じた若者が、環境を変えようと奔走している。分断を恐れず、みんなで調べて、みんなで発信する――。そんな時代が到来しようとしているのかもしれない。

=おわり

グラフィックス 鎌田多恵子