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サイバーエージェント、初任給42万円 IT以外も2割増

サイバーエージェントが2023年春の新卒入社の初任給を42万円に引き上げる。営業やデザイナーなどIT(情報技術)人材以外では、22年春入社と比べて2割超の大幅な増額となる。ソフトウエア開発などIT人材の争奪戦が激しさを増すなか、IT人材以外にも厚待遇を提示する。優秀な人材を確保するため、異例の賃上げの動きが広がってきた。

サイバーエージェントは全社員に一定の残業時間を含んだ年俸制を適用している。これとは別に業績連動賞与を社員の評価に応じて支払っている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(21年)によると、大卒者の平均初任給(残業代・賞与は別)は22万5400円だ。サイバーエージェントの場合は残業代を含むため一概には比較が難しいが、初任給として平均賃金を大幅に上回る水準を提示して人材獲得に弾みをつける。

新卒入社の初任給は年俸を12分割すると月額34万円だった。23年春入社からは、営業などのビジネス職やCG(コンピューターグラフィックス)制作などのクリエーター職の初任給を一律で月額8万円(23.5%)引き上げ42万円とする。

既に18年春入社から、ソフトウエア開発などのエンジニア職では一律の初任給を廃止し、高い技術や職能を持つ人材は新卒でも月額60万円以上の給与を得られるようにしている。23年春入社からはエンジニア職でも37万5000円だった下限を同様に42万円に引き上げる。職種にかかわらず厚待遇を提示する。

2年目以降は評価次第で初任給を下回る年収になる可能性もある。22年春以前に入社し、月給が42万円に達していない社員については、スキルや業績を評価したうえで個別に調整する。ベースアップとは異なり、引き上げ幅は役割ごとに定めた既存のグレード(等級)の範囲内で対応する。

新卒入社は過去10年ほどは毎年200人程度を採用してきた。23年春はビジネス職200人、クリエーター職20人、エンジニア職100人の計320人程度を採用予定だ。新卒入社者の人件費は従来の給与水準と比べて単純計算で2億6000万円程度の負担増となる。賃上げの原資には22年3月末時点で1775億円ある現預金の一部を充て、業績見通しへの影響は軽微という。

石田裕子専務執行役員は「広告代理店やゲーム会社、商社などとの人材獲得競争が厳しい」と背景を説明する。人工知能(AI)などを生かしたネット広告事業やインターネットTVの「ABEMA」など、同社の事業は多岐にわたる。「事業間の異動や新規事業立ち上げなど、変化対応力のある人材を採用したい」(石田氏)という。

物価上昇への対応という側面もある。給与水準の低い若手は特に、物価上昇の影響が生活に及びやすい。ガソリンや電力などエネルギーのほか、食料品や家電など幅広い品目での価格が上昇している。若手社員の生活水準を維持するためにも、給与の引き上げは必要と判断した。

インターネット業界やゲーム業界では初任給を引き上げる企業が目立ち始めている。GMOインターネットグループが23年春入社から、エンジニアなど高度なスキルを持つ専門人材に限り初任給を年収710万円(月額換算では約59万円)に引き上げる。22年の新卒社員の平均年収は、同グループの中核企業であるGMOインターネットの場合で約358万円だった。ゲーム業界では、コーエーテクモホールディングス(HD)は22年春入社から初任給を5万6000円増の29万円とした(残業代、賞与は別)。

パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「初任給を引き上げると応募は増えるが、優秀な人材を見極められる企業側の力が求められる」と指摘する。労働力不足や少子化の影響で新卒の採用競争が激しさを増すなか、初任給の引き上げが企業の競争力を大きく左右する局面に入りつつある。

(大貫瞬治)