· 

顔見えないから恋をする メタバース、恋愛の入り口に

仮想空間「メタバース」で出会い、現実の世界で恋人同士になるカップルが増えてきた。お互いアバター(分身)の姿で接する初対面は、相手の外見が分からないからこそ性格やフィーリングの合う相手を見つけやすい利点がある。恋は仮想と現実の壁を越え始めている。

11月中旬の夜、イルミネーションが輝く都内のスポットを歩く2人がいた。手をつなぎほほ笑みながら歩く姿は、どこにでもいそうな普通のカップルだ。2人は8月、仮想空間「VRChat(VRチャット)」で開かれたお見合いイベントで知り合った。

女性(24)は在宅勤務で人と接する機会が少なく、なかなか新しい出会いがなかった。「この先恋人ができない未来がぼんやり見え始めた」とき、偶然見つけたのがこのイベントだった。それまでマッチングアプリをいくつか試したが、真っ先に目に入るのは顔で、容姿ばかり気にする出会いに嫌気がさしていた。

仮想空間のお見合いイベントで知り合い、リアルでデートをするようになったカップル(都内)

「対面で話すと緊張してしまい、自分の思っていることをうまく伝えられないことが多かった」。メタバースのお見合いイベントはアバターの姿で参加できる。年齢や大まかな居住地などを入力するだけで、顔写真やそのほかの細かい条件設定は不要だ。

イベントで10人弱と数分ずつ会話し、気が合うと思った相手を指名する。マッチングすれば個別に連絡を取り合うという流れだ。2人はイベントの1週間後に再びVRチャットで待ち合わせして会話をした。それから毎週金曜日の夜に集まり、2~3時間話す日々が続いた。

初めてリアルで顔を合わせたのは10月。電車で1時間ほどの距離に住んでおり、2人とも絵画が好きで美術館を訪れた。リアルで会った印象は「アバターの時と声のトーンや雰囲気が同じで安心した」(女性)。対面するのは初めてだったが、メタバースで何度も話していたため緊張せず楽しめたという。

リアルで会える時は直接会い、忙しくて会えない週末はVRチャットに集合してアバターの姿で楽しむ。リアルとバーチャルの垣根を超えたハイブリッドな恋人関係だ。

お見合いイベントを主催するFlamers(東京・世田谷)の佐藤航智社長は「相手の顔が見えない分、内面を真剣に見ようとする」と話す。外見に自信がない人ものびのびと会話でき、意気投合するケースが多いという。

佐藤さん自身、2022年初めにVRチャットの交流会で出会った人と現在付き合っている。東京在住の佐藤さんに対して彼女は長崎県に住んでおり、遠距離恋愛を1年弱続けた。

メタバース内で出会った女性(左)と実際に交際するようになった佐藤航智さん(都内)

デートはVRチャットがメインで、月に1度ほど東京と長崎を行ったり来たりして直接会っていた。佐藤さんの誕生日には、彼女がメタバース上に装飾を施して祝うなど、「物理的には遠距離でも、リアルに近い感覚だった」(佐藤さん)。11月下旬に彼女が長崎から東京に引っ越し、現在は近くに住んでいる。

遠距離恋愛中に装飾したワールド(VR空間)で誕生日を祝った

Flamersは11月、恋愛に特化したメタバースのアプリ「Memoria」の提供を始めた。年齢や居住地、趣味などをもとにマッチングし、リビングなどを模したメタバース空間でアバター同士として会話する。「好きなお笑い芸人」「苦手なこと」などテーマが書かれたサイコロがあり、話す内容で困らないよう工夫している。

初回の時間はあえて30分に制限している。自宅からパジャマ姿でも参加できるのがMemoriaの利点である半面、「リアルなら終電など切り上げる理由を言いやすいが、メタバースでは理由を見つけにくい」(佐藤社長)ための配慮だ。最初の30分でもっと話したいと思えば、次回以降のデートにつながる。参加するにはヘッドセットが必要で、女性は無料だが男性は2000円の参加費がかかる。

メタバースで恋に落ちるのは、外見という情報が見えないことで、逆に想像をかき立てられ、ときめくからかもしれない。これに近い考え方で、あえて細かい条件設定を省いてネット上でマッチングするサービスがほかにも出てきている。

メディア工房(東京・港)は8月、「バーチャルシェアハウス」をコンセプトにしたスマホアプリ「ワンルーフ」の提供を始めた。顔写真や居住地を登録する必要はあるが、それ以外の細かい情報は不要。リアルで会いやすいよう居住地が近いユーザーを約30人の「部屋」に分け、ログインすればいつでも同じ人とチャットでやり取りできる仕組みだ。

メディア工房が3種類以上のマッチングアプリの利用経験がある20~30代の女性に実施した調査では、9割が「マッチングアプリの利用に疲れた」と回答。そのうち9割が恋人や結婚相手とは自然に出会いたいと答えた。ワンルーフを開発した髙橋すみれさんは「細かく条件を設定すると恋に落ちるときめきが失われてしまう。いかに自然な出会いに近づけるかが重要」と話す。

「メタバース進化論」の著者でVTuber(バーチャルユーチューバー)として活動するバーチャル美少女ねむ氏などが21年に実施した「ソーシャルVR国勢調査」によると、4割のユーザーがVRチャット内で恋をしたことがあるという。さらに、メタバースの恋人が現実世界の恋人でもあると回答した人は3割に上る。

恋はリアルとバーチャルの壁を容易に乗り越える。今後メタバースが普及していけば、どちらか一方にとどまるのではなく、自由に行き来して様々なデートを楽しむハイブリッドな恋愛が当たり前になるかもしれない。恋なんて~、いわば仮想と現実のシーソーゲーム?

(川井洋平)