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私が伝える みんなで調べる 社会経験 少なさこそ強み Z世代の発信力 女子高生編集長の1年半

SNSや投稿サイトなど、誰もがウェブで情報発信できる時代。発信者と受信者の境目は溶けつつある。「どうして?」という素朴な感覚に背中を押されて情報を集め、考え、発信するうちに、数万、数十万の読み手の心をつかむ。社会経験の少なさが強みだ。

ファッション誌や女性誌の売り物は、大手出版社などで長年経験を積んだ編集者の「目利き力」。ところが、あえて成長途上の女子高校生らの感性を前面に打ち出し、新商品・サービスの魅力から社会課題まで掘り下げているウェブマガジンがある。2015年にスタートした「EMMARY」(エマリー)だ。

女子高生編集長のもと、記事の企画立案から取材・執筆まで10代が担う。運営するメディアミックスプロダクツ(MMP、東京・港)の大人の編集スタッフも関わるが、取材先へのアポイントなどの裏方仕事と、記事が事実に反していないかという最低限のチェックにとどまる。

これまでで最も長い1年4カ月にわたって編集長を務めたのが、ファッションモデルやタレントとして活動する小浜桃奈さん(19)だ。SNSの総フォロワー数は約56万5千人で、同世代を中心に発信力は大きい。

そんな彼女に編集長就任の依頼が届いたのは高校2年生になる直前の20年3月。当時からコスメやファッションブランドなどの情報をSNSで発信していたが、「SNSでの自分の姿は、フォロワーの目を気にすることが多く、本当の自分ではない部分もあった」。

多くの言葉があふれているがゆえに、素直な自分を表現できない――。SNSで自分を発信することが当たり前の今、若い世代の多くがそんな悩みを抱える。

小浜さんもそんなジレンマを感じていた。しかしウェブマガジンの編集長という客観的な立場でなら、フォロワーを気にすることなく「ありのまま」の自分の思いを表現できるのではないかと直感した。「自分がステップアップするためのきっかけの一つになるのではないかという気持ちもあった」とも振り返る。

 

 

ただ、本格的に活動を始める前の約半年の見習い期間は、自分に編集長が務まるのかというプレッシャーも覚えた。「先輩の仕事ぶりをみて、どうオリジナリティーを出せばいいのか悩んだ」。MMP社員とも話し合いつつ、編集長の役割とは何かを考えた。

中学時代の自分を振り返ると、友人の輪に入れず1人で過ごす時期があった。高校1年で芸能界にチャレンジしたのも「閉塞感のある現状から一歩踏み出したい」との切実な思いがあったからだ。

「自分は興味があったから芸能界に飛び込んでいけたけれど、みんながそうではない」。編集長として自分の考え方を伝えることで「同年代の女性の挑戦を応援する」という明確な目標ができた。

20年11月、5人目の編集長に就任。それまでの編集方針を少し軌道修正し、同年代の進路選択やキャリアにつながる情報の発信を増やしていくことにした。女子高生ライター約70人全員と面談し、それぞれの性格や得意分野などをつかんだ。

新型コロナウイルス禍ということもあり毎回ではなかったが、会議ではチームワークを強めるためにも、なるべく顔を合わせるようにした。テーマ選びから編集の方向性までみんなで話し合った。

ライターたちと記事を発信していく中で「高校生の立場だからこそ、大人が直接質問をしづらいようなことも深掘りして聞ける」という強みに気づいた。むしろ女子高生の社会経験の少なさが武器になる。そう考え、インタビューの際も高校生の視点に立って質問するよう少しずつ意識して変えていった。

エマリーが得意とするコスメや芸能の記事だけでなく、同年代の読み手が進路選択の参考にできるよう働く女性に取材をしたり、普段の学校生活で役立ちそうな商品レビューを書いたりしているうち「企業から商品の共同開発の依頼が来るなど、影響力が強まっていることも実感した」。若者の視点で自由に発信していたからこそ「大人に刺さった」ということでもある。

身の回りだけにとどまらない情報収集も心がけた。ツイッターでは「トレンド」として話題の言葉が随時表示されるが、「仕事が立て込んでいない時は1時間おきに確認し、ざっとではあるけれど目を通していた」。定期的に通知が届くネットのニュースなども活用し、普段あまり関心を持っていない話題にも積極的に目を向けるようにした。

アウトプットの力をつける努力もしている。たとえばテレビを見ているとき。番組のコメンテーターが司会から発言を求められたときは、自分も一緒に答えを考え、口に出すようにしている。自分の考えをはっきりとわかりやすく伝えるための自分なりの訓練だ。

昨春の大学進学を機に編集長の仕事は終わったが、いまも女子高生たちのチームの宣伝部長として編集に携わる。コメンテーターとしてテレビに出演する機会も増えた。女子高生を一堂に集める今年4月のイベント「シンデレラフェス」でも広報戦略などを担う。

活動が広がっても、原点は編集長の経験にある。同年代の疑問を言葉にする中で、共感してくれる多くの読み手と出会った。インスタグラムなどを通じて感想を聞き、新たな記事の発想が湧くという良い循環も実感。将来は自らの媒体を立ち上げたいと思うようになった。

(荒牧寛人)