1月4日朝、長野県松本市にある長野銀行の頭取、西沢仁志は現体制としては最後の年頭訓示を行った。「今年はみんなで明るい『ミライ』を創造していきましょう」。同行は6月をめどに県内最大手の八十二銀行の子会社となる。
信用組合から相互銀行を経て普通銀行に転換した独特の生い立ちを持つ。地元志向の強さでも知られたが、2014年3月期に54億円あった本業のもうけを示す単体の実質業務純益は22年3月期に14億円に減少。コンサルティング機能を強化したり、八十二銀以外の金融機関との連携を考えたりするなど、単独で生き残るすべを探ってきた。
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流れが変わったのは22年6月だ。「一緒にやっていくことを考えませんか」。ある会合で八十二銀頭取の松下正樹が持ちかけた。顧客を支え、従業員が安心して働ける環境を実現するのは、単独での生き残りか再編か――。メガバンク出身の西沢が出した解は、利益水準が20倍の八十二銀との合流だった。
地銀が雪崩を打ったように県内再編に動いている。22年は青森銀行とみちのく銀行がプロクレアホールディングス(HD)を立ち上げ、愛知銀行と中京銀行の「あいちフィナンシャルグループ」が発足した。ふくおかフィナンシャルグループも福岡中央銀行の完全子会社化を決めた。
呼び水となった報告書がある。金融庁が18年に公表した「地域金融の課題と競争のあり方」だ。人口や企業が減る中で金利競争を続ければ、金融仲介機能を発揮できなくなると指摘。23県を地図で赤色に塗ったうえで「1行単独(県内シェア100%)になっても不採算地域」と、事実上名指しした。
「あのまま正しいと思う人は誰もいない」。当時の全国地方銀行協会の会長、佐久間英利をはじめ地銀トップは猛反発したが、23県のうち長崎、福井、青森は県内再編の舞台となった。長野は「2行での競争は不可能だが、1行単独ならば存続可能な地域」だった。
報告書は16年3月末時点のデータで試算したが、足元の収益は当時より厳しい。同庁によると、地銀全体の22年3月期の実質業務純益は計1兆3359億円。報告書の試算時点の16年3月期より2546億円(16%)減っている。
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令和の再編の新たな定石となりつつある一県一行モデル。だが、間近で競争してきたライバルとの融和は簡単ではない。
「一緒にはなったが、相手のことはまだよくわからないことが多い」
プロクレアHDのある行員はこう打ち明ける。例えば、大企業や自治体の取引先が多い青森銀と、中小零細企業や農業分野に強みを持つみちのく銀では、リスク管理の要諦は異なる。
22年10月、HD内に審査企画部が新設された。両行の約20人が所属し、リスク管理や融資審査の基準づくりを担う。共通のものさしを持つことで一体感を高め、「競い合いに使ったエネルギーを顧客に向ける」(みちのく銀常務執行役員の大川英幸)。再編の利を生かせるかは、これからの取り組みにかかる。
地銀を取り巻く状況は差し迫っている。新型コロナウイルス禍の打撃を受けた事業者を支える実質無利子・無担保融資(通称、ゼロゼロ融資)の返済が本格化するためだ。融資総額は22年9月末時点で計約43兆円。返済に行き詰まる企業が相次げば、銀行収益にも影響が及ぶ。
みなと銀行は22年9月末の不良債権が計679億円で、同3月末から1割増えた。社長の武市寿一は「再建計画をつくって支援してもうまくいかない企業が不良債権の増加という形で反映されている」と警戒する。
政府が地銀の経営改革を後押しする狙いで整備した措置にも期限がある。同一県内の地銀が再編しても寡占状態を認める独占禁止法の特例法だ。適用は20年11月から10年間に切られている。
特例ルールの時間切れが迫るなか、1行単独でも不採算と名指しされた地域では再編がいつ起きてもおかしくない。地銀トップは重い判断を迫られている。
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