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分断の先に(8)正比例する移民と豊かさ 国開く本気、変革も呼ぶ

数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞を選ぶ国際数学連合(IMU)。世界トップ級の頭脳が直接顔を合わせる4年に1度の機会が2022年夏、失われた。

 

数学進歩に支障

 

会議が予定されていたのは「欧州への窓」と呼ばれるロシア第2の都市サンクトペテルブルク。結果的にロシアを潤す興行になるのを嫌う参加者に配慮し、オンライン開催に切り替えた。

旧ソ連が得意とした数学は冷戦期も東西交流が続き、国境を越えた研究の共有が発展を支えた。それが政治的な理由で滞れば「数学の進歩に支障が出る」。IMUの中島啓総裁(東大教授)は心配を隠さない。

世界の分断が社会に色濃い影を落とす。人の交流が遮られるのは学問の分野に限らない。

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、加盟国への移民の流入は17年に前年比3%減の530万人。増加からマイナスへと転じた。

移民に不寛容な「内なる分断」。トランプ前政権の米国は移民規制を打ち出し、中国系研究者が狙われるかのように起訴された。反移民の空気は欧州でも目立つ。グローバリゼーションの停滞のひとつの側面だ。

現代をしのぐすさまじい差別が横行した第1次大戦後のドイツ。ナチスの迫害を逃れるため1933年に米国へ渡ったのは、相対性理論で知られる物理学者アルバート・アインシュタインだ。「移民の国」米国は科学研究の躍進も力に世界のリーダーへ躍り出た。

 

人のためならず

 

新たな知や文化を包み込む行為と風土が発展の礎となるのは今も昔も変わらない。移民を受け入れる政策を整えた国ほど豊かさを示す1人当たり国内総生産(GDP)は高くなる。内なるフェアネス(公正さ)を高め、国を開くのは決して他人のためでない。

ライン川のほとりにあるドイツのマインツ。石造りの中央駅を背にした住宅街に、緑色を基調にしたオフィスビルが現れる。2020年に米ファイザーとともに新型コロナウイルス対応ワクチンを開発したバイオ企業、ビオンテックだ。

創業者のウール・シャヒン、オズレム・テュレジ夫妻のルーツはともにトルコにある。08年に会社を興してたどり着いたイノベーションがコロナから世界を救った。「素晴らしい国際協調があったから達成できた」。シャヒン氏は国境を越えた科学者の連携が重要だったと振り返る。

「経済を成長させるのに移民は必要不可欠だ」。カナダのトルドー首相は22年11月にSNSで宣言した。移民の受け入れを25年に50万人にし、21年から2割増やす計画を掲げる。ロシアのエンジニアが大量に流出し、優秀な人材を確保する好機との計算も働く。

翻って日本。難民認定率は英国やカナダの6割超に対して1%の低さ。紛争地から逃れた人を準難民として受け入れる出入国管理法改正案は21年に廃案になったままだ。放っておいても人口が増える高度成長期の発想が抜けきらず、国を開く本気は見えない。

外から来る人と一緒になって豊かさを求め、社会のフェアネスと結びつきを強めていく。そんな繁栄の道が見えている。国境を閉ざしていてはその道は遠のき、失うモノも大きい。