· 

コロナ前と比べた時価総額の増減 値上げ力、LVMH躍進 医薬、新薬開発で選別

新型コロナウイルスが確認されてから3年。世界の企業の時価総額は大きく変動した。米巨大テック企業では優勝劣敗が進み、欧州では高級ブランドにマネーが集まる。景気変動に強い医薬品は新薬開発の成否がカギを握る。時価総額の増減額を日米欧で比較すると「値上げ力」や「開発力」で選別が進む構図が浮かび上がる。

QUICK・ファクトセットと日経NEEDSのデータを日本経済新聞が集計した。日米欧の上場企業約1万2000社について、新型コロナ感染拡大直前の2019年末と22年末の時価総額を比較し地域別にランキングをまとめた。時価総額は株価に発行済み株式数を乗じた金額で、企業の価値を示す。

米国ではコロナ前に上位を独占していたテック大手の評価が二極化した。米国のみならず世界全体でも時価総額の増加額首位のアップルはスマートフォン「iPhone」のブランド力が強く、モデルチェンジを繰り返しながら継続的に値上げに成功。2位のマイクロソフトは、いったん職場に導入されると解約されにくい課金型の事業モデルが評価された。

3位の電気自動車(EV)大手のテスラは高級車が中心で、1台あたりの利幅が大きい。

一方、SNS(交流サイト)を運営するメタはネット広告の競争激化などが懸念され株価は下落。アマゾン・ドット・コムはコロナ感染拡大の初期は巣ごもり消費の恩恵を受けたものの、足元では人件費や原油価格の上昇などが利益を圧迫。株価はコロナ後のピークの半値以下に沈んだ。

 

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは富裕層を取り込み物価高でも躍進した=ロイター

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは富裕層を取り込み物価高でも躍進した=ロイター

欧州では高級ブランドの躍進が目立った。増加額2位の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは緩和マネーの流入で資産が膨らんだ富裕層を引き付け、コロナの行動規制が緩和されて以降は中間層の「リベンジ消費」も取り込んだ。

高級ブランドでは4位に仏エルメス、10位に仏クリスチャン・ディオールが入った。インフレ下で消費者が支出先を絞り込むなか「消費意欲を誘うブランド訴求力の高さから需要が落ちにくい」(ニッセイアセットマネジメントの三国公靖・上席運用部長)。

対照的に中間層向けが多いスポーツ用品大手の独アディダスは減少額の3位。中国での販売が低迷し、欧米では物価高による消費手控えの影響を受けた。「ZARA」を展開するスペインのインディテックスも減少額の11位で消費関連株の明暗が分かれた。

金融引き締めで経済の先行き懸念が高まると、業績が景気に左右されにくい医薬関連の企業に投資マネーが流れ込んだ。欧州では首位がデンマークのノボノルディスク。糖尿病など慢性疾患の治療薬に強みを持つ。肥満症の新薬で先行するのも株価材料となった。

欧州ではがん治療薬が好調な英アストラゼネカが増加額の5位、コロナワクチンを米ファイザーと共同開発する独ビオンテックは14位に入った。米イーライ・リリーは認知症や肥満などの新薬開発が材料視され、抗がん剤「エンハーツ」が好調な第一三共は時価総額が6割増えた。

日本でも付加価値の高い商品やサービスを提供する企業は時価総額を伸ばした。5位のキーエンスは制御機器で独自色のある製品開発に注力する。10月から全商品を対象に10~35%値上げし、23年3月期は過去最高益を見込む。10位の日立製作所は事業の選択と集中を進め、デジタルトランスフォーメーション(DX)など景気に左右されにくい事業の比率を高めている。

時価総額の減少トップは花王。原材料高を値上げで補えず、22年1~9月期の連結純利益が3割減。コロナの感染が急拡大する中国事業下振れへの警戒感もあり株価は振るわない。

もっとも、日本は米国に比べると時価総額の伸びが鈍い。日本全体の時価総額は米国の6分の1、欧州の3分の1にとどまる。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「コロナ禍のような激変期に成長機会をつかむ新興企業が少ない」と指摘している。