· 

富の集中、100年前の恐怖 他者への信頼が世界の礎 Next World 分断の先に 7

弱々しい声だった。「仕事が見つからない」と悩む南米チリの首都サンティアゴの大学生、パブラ・アルバニッチさん(29)。進学へ借りた250万ペソ(約40万円)は利子で2倍以上に。働きながら通学するもくろみはあっけなく崩れた。

若年失業率は2割。街にはトタン屋根の家と立派なタワーマンションが混在する。「グローバリゼーションの優等生」の恩恵は一部に偏る。

元学生運動家のチリのボリッチ大統領は、大衆の不満を背景に21年末の選挙に勝利した(22年3月、サンティアゴ)=ロイター

不満は2021年末の大統領選で爆発した。当選したのは大衆迎合(ポピュリズム)政策を掲げた元学生運動家の左派、ボリッチ氏。資本主義と民主主義のきしみが社会を不安定にする。

「ウォール街を占拠せよ」を合言葉に米国で反格差のデモが広がったのは11年。怒りが新興国に伝播(でんぱ)し、米国では富の集中がさらに進んだ。

米国の所得上位10%の人々が得た所得は21年に全体の46%に達した。40年で11ポイント高まり、並んだのが1920年前後。そのころ吹き荒れた革命運動の恐怖は今も資本家の脳裏に焼き付く。

私有財産を奪う究極の反格差運動ともいえる共産主義。17年のロシア革命の2年後に国際的な労働者組織である第3インターナショナルが誕生し、反資本主義の機運が世界で勢いを増した。

1917年のロシア革命を機に社会主義運動が世界で勢いを得た=AP

「赤の恐怖」。時の米司法長官パーマーは強制捜査で過激派500人超を国外追放した。「時間を無駄にできない」(ワシントン・ポスト紙)と強権を支持する世論に社会の焦りが映った。

そして現代。怒りの受け皿になっているのがポピュリズムだ。ドイツのキール世界経済研究所によると、世界のポピュリズム政権比率は20世紀末の7%から27%に増え、約4倍になった。

なぜ人々は刹那的な主張と政策になびくのか。世界価値観調査で「他者(周囲)を信頼できるか」の問いに北欧諸国は6~7割がイエスと答えた。北欧より富が偏る米国や日本でイエスは4割を切り、ポピュリズムに流れたチリは12%だ。

この「他者への信頼」は日本経済新聞が作成した「フェアネス(公正さ)指数」を構成する10項目の一つ。富が集中するほど他者への信頼が下がり、フェアネス指数が低くなる。同時にポピュリズムの場当たり政策に翻弄されやすくなる。

人々の不満をあおるだけで解を示せないのがポピュリズム。不満のはけ口を外に求めた愚かさはナチスドイツの例を振り返っても明らかだ。

足元で極右政党の台頭を許すが、社会の信頼で世界の先をゆく北欧諸国。学ぶべきは機会の均等の徹底だ。「時代の変化についていけない企業の労働者も成長分野に移って活躍できる」。スウェーデン産業経済研究所のパーション教授は北欧のやり方を「トランポリン経済」と表現する。

労働市場からこぼれ落ちた人も、やる気さえあればトランポリンで跳ね返るように舞い戻れる。訓練や学び直しの場を整えるのが政府の役割だ。研さんを積む失業者に手当を多くし、何もしなければ減らす。アメとムチで意欲を引き出す。

機会の平等を浸透させ、他者への信頼を育む。安易な排外主義にはくみしない。国際社会の輪を広げ、秩序ある世界をつくる一歩だ。