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物言う株主への立ち退き料、他の株主は納得してますか

たいていの場合、アクティビストは利益を確保して去るが、その他の株主にとって損得勘定はどうなのか。

ジャフコにセントラル硝子、自社株TOBは誰のため?

日本で最も有名なアクティビストであろう村上世彰氏は、ここ数年、こう言い続けている。「もう歳も歳だし、もうけを出して財産を増やすのが目的ではない。お金はもう(十分にあるから)いらない。資本効率の悪い日本企業に再編を促し、日本企業を変えたい」。ところがその言葉とは裏腹に、22年はもうかってしょうがない一年だったに違いない。

3月には村上氏の率いるファンドが約4割を保有していた大豊建設が上限418億円の自社株買いを、9月には同じく約30%を保有していたセントラル硝子が同500億円の自社株買いを発表した。11月下旬には2割弱を保有するジャフコグループも420億円の自社株買いを発表した。

共通するのはこれらの自社株買いが株主還元のためではなく、村上氏を追い出すための方策ということだ。設定された金額は、いずれも村上氏の保有分をやや上回る規模。「立ち退き料」以外のなにものでもない。自社株買いは通常、配当と並ぶ株主還元の一環として株式市場から評価されることが多いが、立ち退き料となると話は別だ。ほかの株主にとってうまみはない。

有名アクティビストの村上世彰氏と正面から向き合おうとする企業は少ない

こうした大株主から株を引き取る自社株買いは、多くがTOB(株式公開買い付け)の形を取る。市場で売却されると強烈な売り圧力となるからだ。しかも株価にそれなりのプレミアム(上乗せ)をつけたTOB価格にすると、その他の株主からも応募が来てしまうため、アクティビストしか応募しないようにほぼ時価かディスカウントTOBになることが多い。

つまりほかの株主は企業が巨額の立ち退き料をアクティビストに払うのを、眺めているしかない。もちろん企業側も、こうした株主の機嫌を損ねたくないため、増配や自己資本利益率(ROE)の向上などを同時に声高に訴え、すべての株主に配慮すると主張するのが常だ。

だがこうした主張は多くの場合「本当にそうなるかは保証されないから眉唾」(個人投資家)とみなされやすい。そんな株主の不満が如実に表れたのが前述のジャフコのケースだ。

420億円の自社株TOBを実施すると発表したが、TOB価格は未定という異例のもの。村上氏が足元の株価水準では低すぎてTOBに応募できないと主張したため、ジャフコはひとまずTOB価格を未定にして、保有する野村総合研究所株の売却や手元資金の圧縮といった資本効率改善策、株主還元強化策を自社株買いと同時に発表した。株主還元などを好感して株価が村上氏の満足する水準まで上がってから、TOB価格を決めようとしたのだ。

だがその思惑を見透かした株式市場は、ジャフコ株を押し上げなかった。最終的に株価は設定されたTOB価格決定期間中にTOB開始の最低条件としていた株価にさえ届かず、ジャフコは自社株買いをひとまず断念せざるを得なかった。

通常はTOB価格が決まっているため、ほかの株主は不満でも見守ることしかできない。だがジャフコはTOB価格の決定を市場に委ねたため、市場は「株価を上げない」ことでTOBを発動できなくし、立ち退き料の支払いを阻止した。多くの株主が、アクティビストを追い出す費用に否定的な考えを持っていることの証左だろう。

単なる追い出し策ではなく、資本政策を含め企業のあり方をガラッと変えようと試みれば市場の評価も得やすい。米コーンウォール・キャピタル・マネジメントに3割強の株を持たれた東亜石油は、出光興産の完全子会社になることを決断した。出光は東亜石油株に43%のプレミアムをつけてTOBを実行。コーンウォールだけでなく、その他の一般株主もこれだけのプレミアム付きで東亜石油株を売却することができた。

追い出すよりも向き合おう

そもそもアクティビストをなんとかして追い出そうという考え方を変えた方がいいのかもしれない。

ほかの株主からすれば「うるさ型の株主は経営に刺激や規律を与えてくれるので、別に迷惑ではない」(個人投資家)。巨額の立ち退き料を払うことに納得感はなく、そのお金を本業に投入してほしい、と考えるのが普通だろう。

それに株価を上げれば通常、アクティビストは満足して勝手に株を市場で売却して出ていくもの。にもかかわらず立ち退き料を払って早々に追い出すことに拘泥していると、経営陣が株価を上げる自信がない、と受け止められても仕方がない。

アクティビストを追い出すのではなく、腰を据えて付き合うことを選んだ好例が川崎汽船だ。シンガポールのアクティビスト、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが大量保有報告書で川崎汽船株を6%強保有したと開示したのは2015年。それから川崎汽船株をどんどん買い増し、一時39%まで保有比率は高まった。

その後、川崎汽船はエフィッシモから社外取締役を迎え入れるなどして対話を重ねた。そうこうしているうちに海運市況は大幅に改善し業績も株価も急回復、22年11月に1000億円の自社株買いを実施することを決議し、さっそく東京証券取引所の立会外取引を利用して同月に382億円を買い取った。そのうちエフィッシモの売却分が約318億円とみられる。

アクティビストの要求は時に苛烈で、企業側が嫌う気持ちは分からなくもない。もちろんアクティビストに突っ込みどころを与える多額の現預金保有や少数の社外取締役といった状況を避けるにこしたことはないが、上場している以上は株主を選べず、その存在から完全に逃れることはできない。それは上場コストのようなものだろう。

注意しなければいけないのは、アクティビスト対応は一歩間違えると他の株主の離反も招きかねないということだ。立ち退き料を払ってアクティビストを追い出した後に残るのは、既存株主の経営陣に対する不信感、では根本的な問題解決になっていない。

(M&Aエディター 奥貴史)