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理研、量子計算機と「富岳」連携 実用化25年に前倒し 企業の技術革新支援

量子コンピューターはスパコンの1億倍超の速さで計算する可能性を持つが課題も多い。スパコンと組み合わせてより高度な計算を実現する「ハイブリッド型」で従来より前倒しして2025年をめどに実用化する。創薬や新素材開発などで日本企業の技術革新を後押しする。

 

神戸市にある富岳と量子コンピューターを通信でつなぎ、双方で計算の連携や役割を分担する。量子はスパコンでも難しい原子や電子レベルの精緻なシミュレーション(模擬実験)などで力を発揮すると見込まれており、中核の計算のみを量子に担わせるようにする。

現状の量子コンピューターは動作が不安定で計算エラーが生じやすい。このため計算が断片的になる。スパコンで量子による数多くの断片的な計算結果を整理補強して正しい解に近付ける。

量子コンピューターは19年に米グーグルの試作機がスパコンで1万年かかる計算を3分で実行するなど世界で開発競争が激しい。日本でも理研が国産初号機となる試作機を開発中で22年度内に埼玉県和光市に設置する。

グーグルは問題を克服した「完成形」を29年に実現し本格利用につなげる目標を掲げる。

理研は発展途上の量子コンピューターをスパコンとして世界2位の計算速度を誇る富岳と組み合わせて、グーグルに先行する25年ごろの実用化を目指す。

理研はトヨタ自動車や日立製作所などで構成する協議会を通じて量子コンピューターとスパコンを融合した計算基盤の活用を企業に呼びかける。23年度に専門部隊を設け計算手法などを研究し、量子とスパコン間のデータのやりとりが円滑にできる技術を開発する。

量子コンピューターは製薬やエネルギー、車、金融など幅広い産業の競争力を左右する見通し。物質の電子の状態を精緻に予測して新機能の素材を開発したり画期的な電池開発につなげたりする。人工光合成では光を当てたときの変化などを正確に模擬実験でき実用化に向けて前進する。気候変動の問題にも解決をもたらす可能性を秘める。

半導体材料の開発や膨大なデータを扱う人工知能(AI)などの分野でも活用が見込まれる。スパコンや量子コンピューターは経済安全保障上も重要で、自前で技術を保有する必要性が高まっている。国内では米IBM製の量子コンピューターを川崎市に設置した事例があるものの、海外勢に比べ日本としての開発は遅れていた。国内企業では富士通が初めて、23年度に試作機を整備する。

量子コンピューターの早期利用に向け、スパコンと組み合わせる「ハイブリッド型」は世界の潮流となりつつある。欧州連合(EU)は22年10月、独仏伊など域内6カ所に拠点を設け、スパコンと量子を統合した計算基盤を築くと発表した。

仮想空間上に「デジタルツイン」として人体を再現し新薬開発の迅速化に役立てたり、物流網を最適化して燃料費削減につなげたりする利用法を想定する。米国でもアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などが量子と従来コンピューターの連携サービスを通じて実用化を目指す。

ボストン・コンサルティング・グループは量子コンピューターが40年ごろに最大8500億ドル(約110兆円)の経済的価値を生むと予測する。活用が前倒しで進めば市場拡大のペースも速まる可能性がある。

(AI量子エディター 生川暁)