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分断の先に(2)フレンド経済圏の落とし穴 相互依存、1930年代の4400倍  

相次ぐ台湾脱出

 

米戦略国際問題研究所によると、台湾に本社を置く525社のうち13%がビジネスの一部を東南アジアなど外部へ移した。覇権争いの最前線と化した台湾から脱出する動きが止まらない。

「信頼できる多くの貿易相手国との経済統合を深める」。イエレン米財務長官の言葉は、中国やロシアをはじめ「信頼できない国」が勢いを増す裏返しだ。フェアネス(公正さ)なき国との信頼は成り立たない。

提唱したのは「フレンドショアリング」。拠点を国外に移す「オフショアリング」になぞらえ、友好国へのビジネス集約を意味する造語だ。

理想と現実のギャップは大きい。米国が2022年につくったインド太平洋経済枠組み(IPEF)。22年夏のオンライン閣僚会合は不穏な空気に包まれた。メンバーは14カ国だが、会議画面に映ったのは13カ国。欠席したインドネシアは、データ流通の枠組みで米国とそりが合わないことで知られている。

対中包囲でカギを握るはずのインドはIPEFの中核である「貿易」分野の交渉に背を向ける。「新興国を差別するかもしれない」。ゴヤル商工相は米国への不信感を発言ににじませ、フレンド経済圏づくりは出ばなから不協和音が響く。

政府と企業のズレも鮮明だ。ドイツ政府は22年春、独フォルクスワーゲン(VW)の中国向け投資に対して、政府保証を与えるのを拒んだ。人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区での投資だけでなく、上海の案件も含んだという。

中国との取引は一切認めない。そんなふうに映る独政府の態度にヘルベルト・ディースVW前社長は「もっと(中国と)対話をしてほしい」と不満を漏らす。中国はVWの売上高の4割を占め、重要なビジネス先。独企業の22年上期の対中投資は過去最高を更新し、政府との距離は開く。

戦間期の1930年代。英国やフランスがそれぞれの植民地を巻き込むブロック経済圏で敵国を排除した。当時と今の決定的な違いは、毛細血管のごとく絡み合うグローバルな相互依存だ。

 

見誤った英作家

 

日本経済新聞の分析ではインド太平洋をまたぐ貿易額は1935年から2014年にかけて4400倍に膨らんだ。これを断ち切る底知れぬ衝撃は、フレンド経済圏の落とし穴といえる。

それでも歴史は繰り返すのか。楽観は禁物だ。英国のノーベル平和賞作家ノーマン・エンジェルは1910年、著書で「経済の統合で戦争は無益なものになる」と論じた。だが、4年後に第1次大戦が始まり、悲惨な歴史が繰り返された。

かつて大戦の呼び水になったブロック経済圏と同じ危うさを秘めるフレンド経済圏。排除の論理は対立を先鋭化させ、世界に甚大な被害をもたらす恐怖を伴う。一定の結びつきを保ちながら、フェアネスに基づいて距離感を変えていく。秩序への無謀な挑戦を抑え、平和と繁栄を守る道だ。