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リスキリングが変える(下)学び支援、脱・放任型 米新興、AIが教材推奨/仏機関、仲間で教え合い

国内でも単に多くの講座をそろえて選ばせる「放任型」でなく、学習意欲も高めるサービスが広がる。先端技術や手法の斬新さで先行するのは海外勢だ。

米ウォルマートや英ユニリーバなど名だたる世界企業がその門をたたくのが、2017年創業のスタートアップ、米スカイハイブだ。人工知能(AI)を活用したリスキリング支援で知られる。日本には22年に進出しており、大手商社や金融機関がサービスの試験導入を始めた。

AIが各社員の職務経歴書などを読み込み、スキルをデータベース化。専用システム上で個々人が希望するキャリアに就くために必要なスキルの習得方法や学習時間を示し、ふさわしいオンライン教材などを推奨する。

職務の内容が限定されない総合職が中心である日本企業。社員の既存のスキルの把握が十分でなく、リスキリングもeラーニング講座を自由に受講させる放任型が多い。スカイハイブのショーン・ヒントン最高経営責任者(CEO)は「目指すゴールと現在地が分からなければ、リスキリングの効率は高まらない」と強調する。

無料の「リスキリング学校」も登場している。東京都在住の松川陵さん(26)は新型コロナウイルス下、勤めていた外食産業の将来に不安を感じ、一念発起してIT(情報技術)エンジニアを目指した。経済的余裕もなかった松川さんがスキル習得の場に選んだのが、ITエンジニア養成学校「42(フォーティーツー) Tokyo」だ。

42はフランス人実業家が起業人材育成などを目的に13年に私財を投じて設立。現在は世界20カ国以上に展開する。最大の特徴は、難関だがプログラミング能力の素質をみる試験に合格すれば無料で受講できることだ。

東京校は20年に開校し、ゲームのプログラミングなどの演習型課題を提供している。講師はいない。受講者はネットで調べたり、お互いに教え合ったりしながら課題解決のスキルを身につける。現在は約350人が学ぶ。約2年間勉強した松川さんは、IT大手のサイボウズにエンジニアとしての入社が決まった。「受講者同士が励まし合うことで学習意欲を維持できた」と振り返る。

転職まで一貫で支援するサービスも出てきた。米IT大手のセールスフォースが21年、日本で始めた「パスファインダー」。同社の主力のクラウド技術を学べるだけでなく、国内企業への就職支援も受けられる。日本法人の浦野敦資専務執行役員は「就職という目標が明確になることで、リスキリングの効果は高まる」と強調する。

商機とみた国内勢も受講者の獲得に乗り出す。人材サービスのランサーズは22年夏、ネット関連の起業や副業を目指す人向けのeラーニング講座を始めた。未経験者も対象で、責任者の奥脇真人部長は「稼げるスキルを高いコストパフォーマンスで学べる」と語る。

ランサーズは40万社超の顧客企業からの仲介業務を分析。その中からニーズが高いスキルを厳選し、動画で手軽に学べるカリキュラムを作った。受講料も5万円程度からに抑えた。

岸田文雄政権は人への投資を重点課題に掲げ、関連市場の拡大の期待も膨らむ。ただ、リスキリングはあくまで手段であって目的ではない。今後は、働き手のキャリアや生産性の向上につながるかの「質」がより問われる。

(雇用エディター 松井基一)